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【作品名】魔法少女リリカルなのはStrikerS 【属性】空戦S+クラス魔導師 【大きさ】19歳の少女並 【攻撃力】ディバインバスター:対象を分子レベルで分解し、異次元に送る。射程は月まで届くほどで速度は光速クラス。 ショートバスター:ディバインバスターのバリエーション。抜き打ちが可能な中距離砲撃。 アクセルシューター:対象を分子レベルで超高速で振動させて粉々に破壊する。一度に32発を操れる。 スナイプショット:アクセルシューターを纏めて射撃、アクセルシューター以上の威力。 ACSドライバー:光速の99%まで加速し衝撃波で周りの敵を破壊する。 スターダストフォール:物質を操作してぶつける。地球を光速まで加速してぶつけることでも造作も無い。 エクセリオンバスター:ディバインバスターのバリエーション。炸裂して広範囲の敵を巻き込む。射程はDBよりやや短め。 スターライトブレイカー:ディバインバスターのバリエーション。対象にトラウマを植え付けて逆らえなくしてしまう。 【防御力】次元世界(宇宙)一つ破壊するエネルギーの爆発に巻き込まれて無傷。 ラウンドシールド:因果を操作しありとあらゆる攻撃を無力化する。 プロテクションEX:物理法則をねじ曲げて攻撃を無力化する。 【素早さ】光のようになり光速で飛び回れる。反応光速。次元跳躍魔法でワープも可能。 【特殊能力】ブラスタービット:四つの子機によりサポート。それぞれなのはとほぼ同等の力を持ち同じ魔法を使える。 チェーンバインド:敵を捕まえて分子レベルで動けなくしてしまう。 レストリクトロック:対象の時間を止めて動けなくしてしまう。 クリスタルケージ:対象をこの世界の法則から切り離して永遠に封印してしまう。 WAS:無数の「眼」を飛ばして世界の全て、物質から空間、時間、因果までありとあらゆるものを把握してしまう。 【長所】完璧 【短所】無し 751 名前:格無しさん[sage] 投稿日:2008/09/03(水) 02 45 29 (名称不明)考察 全体的に攻撃などに不明点が多い(速度や射程など) 加えてブラスタービットが誰と同等の力か抜けてしまっていて完全に意味不明になっている ブラスタービット次第ではかなり位置が変わることもありえるので名前も含めて情報待ち 752 名前:格無しさん[sage] 投稿日:2008/09/03(水) 02 54 47 ブラスタービットが誰と同等の力か抜けてしまっていて それぞれ なのは とほぼ同等の力を持ちってかいてね? と思ったがこいつの名前そのものがないんだw
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ウイングロードで突っ走った先にあるのは、狙撃型オートスフィア。 遠くからさんざ撃たれまくったけれど、 ティアの幻術が道を拓いて、やっとあたしの射程内。 半年に一度のBランク昇格試験、ここで落とせば、また半年後。 あたしだけじゃない、ティアの夢が、こんなところでつまづくのなら。 足をくじいたティアを放って、あたしだけがゴールするくらいなら。 そんな未来は、握った拳でぶち砕く。 あの日、あの時、あの人が、あたしにそうしてくれたように。 そして、もう二度と、守れないことのないように。 神 聖 破 撃 ディバイン・バスター 魔力球、形成! 振り抜く右のリボルバーナックルで殴打、衝撃波、発生! 敵の攻撃全部はね飛ばし、無理矢理に隙をこじ開ける。 分厚い天井をぶち抜いて生きる道を創ってくれた、あの人の魔法。 間髪入れずにウイングロード、展開! ローラーブーツ、最大加速! 作った道は、あたし自身で駆け上って、極めるんだ! 右の振り抜きざま、左の素拳に込められた力は、 踏み出した足と同時に、真正面の『未来』にめり込む。 「 因 果 (いんが)!」 あの日の空に 見つけた憧れ あたしは あたしの なりたいあたしに なる ! 魔法少女リリカルなのはStrikerS 因果 第九話『二人(前編)』 「因果だってよ、覚悟くん」 「否、あれはディバインバスターなり」 照れなくてもいいのに。 少し嬉しそうで、少し哀しそうな顔をしている覚悟くん。 やっぱり、一度は生命を助けた子だから、 わざわざ戦いの場に戻ってくるのを止めたい本音もやっぱりあって。 でも、あのとき、あの子を助けた魔法の名前を受け継いで、 誰かを助ける仕事を望んでくれた…伝わる思いも、うれしくて。 また映像に目を移したら、ティアナちゃんを背負ったスバルちゃんが、 制限時間ぎりぎり、全速力でゴールに突っ込んでくるところ。 合格は間違いなしだった。 満点はあげられないけど、見せてくれた奮戦と結果は、納得するには充分すぎる。 そんな、感激の目で見ていたから、あやうく気づかないところだったけど。 「危険だ」 「…まずいね」 ヘリから一緒に飛び降りた。 このままじゃ二人とも、ゴールの先にある瓦礫に正面衝突だから。 最後の最後でこんなミス…危険行為の減点は大きいけれど、 今はそんなこと、気にしている場合じゃない。 覚悟くんは覚悟くんらしく、正面から二人を受け止めきるつもりみたい。 だったらわたしはその後ろからアクティブガードで、さらにやさしく受け止める。 誰も痛くないように…そう、思っていたんだけど。 スバルちゃんのとった行動は、覚悟くんの予想も、わたしの予想も超えていたんだ。 わたし達が受け止める体勢をとるよりも前に、スバルちゃんは、ティアナちゃんをお姫様抱っこして。 …自分で、仰向けに転んだんだ。 「んんうううぅぅぅぅぅぅッ!」 歯をくいしばりながら、背中でアスファルトを滑ってゴールを通過。 ティアナを上に載せたまま、平手を地面についてブレーキ。 わたしと覚悟くんよりはるかに前の地点で、速度を完璧に殺して止まった。 正直、言葉もなかったよ。 だって… 「…ゴール、だよ、ティア」 「っの馬鹿ぁ!」 バリアジャケットの上着は摩耗しきって消滅して、 肩とか背中とか、こすった後が一直線に赤く残ってる…地面に。 痛い、痛いよ。 これは痛い、見てるだけで。 「なんてこと、なんてことしてんのよ! あんた…あんた、正気ぃ?」 泣きそうな顔で胸ぐらを掴み上げてるティアナちゃんに、 スバルちゃんは少し笑って答えてた。 血みどろの背中に、全然気づいてないみたいに。 「その…ティアが、足、怪我してるから。 これで、公平かなって…」 「馬鹿言ってんじゃないわよ、なにが公平よぉ」 「それより、間に合ったよ、制限時間内に、ゴールできたみたい」 「んなの、どうでもいいわよっ、いくら、あんたが…」 覚悟くんが近づく。 わたしも近づく。 二人とも、それに気がついて、こっちを見た。 試験の結果は、今は二の次。 言ってあげなくちゃいけないことができたけど、 それは覚悟くんがやってくれそうだったんで、わたしは止まって待っている。 少しぼんやりした顔のスバルちゃんの正面に立つと、覚悟くんは。 「馬鹿者! 己が身を大事にせよ!」 開口一番で怒鳴りつけてくれた。 思わずきつく目を閉じるスバルちゃんに、かまわず続けていく。 「父と母より受け継ぎし玉身(からだ)。 昇格試験ごときで、粗末に扱ってはならぬ」 「…ごとき、じゃ、ないです」 だけど、ここでまた。 「ティアの夢が、かかっているんです。 ここでダメにしちゃったら、また半年先になるから。 半年も遅れちゃうから、だから…」 スバルちゃんは、明確に反論してきたんだ。 この試験には、これだけのケガをわざわざしてまで受かる意味があるって。 それは友達の夢を守ることなんだ、って。 そう聞かされた覚悟くんは、少し、むずかしい顔をしてから。 「その意気やよし」 「…わっ?」 「よくぞ、これほどになってまで守り抜いた」 脱いだ機動六課のジャケットを、スバルちゃんの背に放り投げるようにかけた。 当然だけど、覆い隠された傷口の部分から、すぐに血で汚れていく。 「だが、できるだけ自ら傷を負うことは避けよ。 おまえの友も喜ばぬ」 目配せされたティアナちゃんも、一瞬遅れて弱々しくうなずいた。 覚悟くんは満足するようにここから立ち去ろうとして、 その背中をまた呼び止められる。 「あ、あのっ、これ、上着」 「医務室で処置を受けて後、返しに来るがいい」 「でも、血で…」 「おれもあの時、きみの服をおれの血で汚したはず。 これにて公平!」 「…………」 あとは覚悟くん、振り返りもしなかった。 これからは、守るべき誰かじゃない。 一緒に戦っていく後輩になる。 覚悟くんに言わせてみれば、スバルちゃんは生命の恩人で。 スバルちゃんがいなければ、火事の中、一人で力尽きていて。 そんな子を戦わせるのはやっぱり嫌って本音は、きっと、どうにもならない。 でも、そんな覚悟くんだから、わたしはすっごく期待してる。 絶対に死なせたくなくて、その上、スバルちゃんの戦う意志が揺るがないなら。 覚悟くんは、スバルちゃんにティアナちゃん、それとまだ来ていない二人にも、 育てるために全身全霊を尽くしてくれる。 これは確信かな。 その後、試験が終わった二人に、すぐ機動六課の話を持ちかけた。 二人が出会った、あの怪人の背後関係を今は追っているって説明した。 だから多分、他よりも、ずっと危険で血なまぐさい仕事を請け負うことになるよ、って。 断りたければ、断ってもいい。 二人にはその権利があるから、って。 …答えはね、ふたつ返事だったよ。 これからよろしくね。 スバル、ティア。 わたしも、二人を絶対、死なせたりしないから。 スバル・ナカジマ、およびティアナ・ランスター。 この二名は良し。 だが、もう二名はどうか? エリオ・モンディアル、およびキャロ・ル・ルシエ。 魔導の素質すぐれたるフェイトの養子二人。 スバルとティアナが今回の試験にて勝ち取った陸士Bランクを、 エリオなる少年、すでに保有しているも、それだけでは信用できぬ。 精神(こころ)伴わぬ戦闘力は危うき候。 たとえるならば、嵐に揺らるるいかだの上、樽に詰まったニトログリセリンに同じ。 保有する大破壊力、正しく扱えねば自らを滅ぼす。 これ父、朧(おぼろ)の教えなり。 ゆえにおれは問わねばならぬ。 両名の、戦士としての了見を。 別にフェイトを信じぬわけではないが、こればかりは拳を突き合わせねばわかるまい。 両名を機動六課官舎に呼びつけて早々、おれは模擬戦を申し込んだ。 むろん、フェイトが立ち会う。 養子二人がこれより志望するは、殺意うずまく戦場なれば、 むざむざ死にに行かせるを承知するわけもなし。 ただ、これだけを言って、この模擬戦を許したのだ。 「私は信じてるよ。 二人の持ってる、ゆずれないもの」 「その言葉、覚えたぞ」 模擬戦場には、基礎的に廃墟を設定。 高速道路跡上にて、おれと両名は向かい合っている。 紅の少年と、桃色の少女。 まだ年端もいかぬ子供… とはいえ、おれとて十歳にして零式鉄球をこの身に埋め込んでいるのだ。 そして、さらには。 あの高町なのはも、フェイト・テスタロッサ・ハラウオンも… はやてまで、十歳に届かずして実戦に身を投じているという。 すなわち、身体未成熟であろうが、面影に幼さ残っていようが、あそこにあるは未知の敵。 いささかなりとも、あなどる気は無し! 「正調零式防衛術(せいちょう ぜろしきぼうえいじゅつ)、葉隠覚悟…参る!」 「…エリオ・モンディアルと、ストラーダ!」 「う、あ、あの…」 紅の少年、エリオは槍を掲げて返礼したが、 少女は気後れしきって何も言わぬ。 早くも底が知れたか? そのようなわけはあるまい。 「名乗れ! 戦う前から気迫に呑まれてどうする!」 一喝。 これでひるんでしまうならば、戦場に立つ資格なし。 だがそこで、傍らにいたエリオ、少女の背を軽く叩き、 振り向く少女に目を合わせ…うなずく。 そして再び、槍をこちらに構え、突き出す。 宣戦布告、確かに見たり。 少女もまた、気合いを入れ直し、今度こそ名乗った。 「召喚師、キャロ・ル・ルシエ! フリードリヒと、ケリュケイオン!」 エリオから多少の力をもらったか。 それも良し。 少女、キャロの背に隠れていた竜、フリードリヒも姿を現わし、開幕準備完了。 「…来い!」 戦士の礼にて、相手つかまつる! 前へ 目次へ 次へ
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オープニング 「PHANTOM MINDS」 作詞:水樹奈々 作曲:吉木絵里子 編曲:陶山隼 歌:水樹奈々 ※第61回NHK紅白歌合戦(2010年)出場の際に、この曲を披露した。 エンディング 「My wish My love」 作詞:椎名可憐 作曲・編曲:太田雅友 歌:田村ゆかり 挿入歌 「Don t be long」 作詞・作曲・編曲:矢吹俊郎 歌:水樹奈々 イメージソング・キャラクターソング 1.小さな花を 作詞:都築真紀 作曲:N.D.O 編曲:安井歩 歌:田村ゆかり ※2009年8月14日、コミックマーケット限定販売(ドラマCD付特別鑑賞券Side-N) 2.君がくれた奇跡 作詞:都築真紀 作曲:HAPPY SOUL MAN 編曲:中條美沙 歌:水樹奈々 ※2009年8月14日、コミックマーケット限定販売(ドラマCD付特別鑑賞券Side-F) 関連作品 魔法少女リリカルなのは (2004) 魔法少女リリカルなのはA s (2005) 魔法少女リリカルなのはStrikerS (2007) 投票用テンプレ OP…オープニング曲、ED…エンディング曲、IN…挿入曲、TM…主題曲 IM…イメージソング・キャラクターソング
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高町なのは(A s) |\ ___ __ | \∠ _ . . . \ / / | > ' .  ̄ ̄ .ヽ、 . ヽ. / / j/ . ._ . .-- . 、 . . ヽ . .ー . .‐ .- 、 / / / ., . ¨ . . . . . . . . . . . . . . . . \ / / / / / . . / . / . . . . . . . . . . . . .ヽ j / / j〃 / ./ . . / / . / . . . . . . . . . ヾム.≦ _ l . , ' . / . . . /. ./. ./.. ..j i ヽヽ マj- _ . . \ /| . . / . / { . ; 斗 .十-j 、 . ハ . , r‐- .、! .', . , . } \ ヽ . . \ / . .| . . /l . . ,' . l / /l /l . ∧ ..l ヽ l \ .iヽ} . .', lヽ \. \ . . \ / . . . .∧ . .l ハ . .lヽ jl . .l l/ .j /_ ヽj ヽ!__ ',l . l . . l .j ヽ ヽ \ . . ヽ / . . ./ ヽ .j |.ム . |, . . 、 j_r==ミ z==.、j ./ . .//\ l ', . . .',. { . . ./ レヘ .!ヽ/ ハ´ wwx xww ヽ/ . 〃 \ | . l . . l .j . . .l `j l . i ハ _' _ ∠ イl \j j . . . . .| l . . ハ | . l 小、 l 〉 / . // / . . . l ヽ . . ヽ | . l |. 丶、 ヽ._ ノ イ . , ./ _/ . . . / \ _ , ゝ ヽ l |__ェ=i> _-_ <i=/ . /  ̄フ . . ./ ヽj  ̄ ̄ ̄  ̄ ¨/ ./7 ∠ - ィ7.ゝ- 、 z― ,〃=く /// ヽ二ヽ z― 、// _ ヽ ,r≠ ┴'、 / 〈∠, / ¨ マヽ 出典:魔法少女リリカルなのはA s 死亡時期:1日目・早朝 殺害者:ミリオンズ・ナイブズ 最期の言葉:「え……?」 【ロワ内での活躍】 殺し合いを止め、プレシアと「お話」をすべく行動を開始する。 その後、同じくプレシアに翻意するカレン、及びチンクと遭遇。 しかし、高町なのはの名を口にしたことで、チンクの態度が激変。襲撃を受けることとなった。 曰く、このデスゲームに参加している「もう1人のなのは」を知っているとのこと。 曰く、自分はそのなのはから作られたクローンであるということ。 カレンの左腕を失いながらもチンクを撃破し、退避に成功したなのはだったが、彼女の言葉はその胸に大きな不安を抱かせることとなった。 その後、カレンを治療すべく病院を目指していたなのはは、殺生丸との戦闘によって意識不明となったナイブズを発見、共に病院へと連れて行く。 しかし、2人を病室のベッドに寝かせ、医務室を探しにいった間に、カレンは行方不明となってしまった。 自分の不注意のせいで彼女が犠牲となった。そう判断したなのはは失意に暮れる。 だがそこへ、ナイブズが手を差し伸べた。自分は彼女を連れ去った犯人に心当たりがある、と。 その先を聞く前に、なのはは他ならぬナイブズの凶刃に倒れた。 カレンを消滅させたのがナイブズであること。 自分がまぎれもない本物の高町なのはであること。 プレシアがこのデスゲームを催した理由。 それらをなのはが聞くことは、遂に叶わなかった。 追悼コメント あ・・あっけねえ・・ -- homuhomu(21) (2010-04-13 05 26 01) 名前 コメント
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その一撃は唐突だった。 『予測』不能ッ、『防御』も不能ッ! 完全に不意を突いて、その一撃は用心深いなのはの懐に直撃した。 今、SLBの為の魔力を終息し終え、発射寸前という臨界状態のなのはの胸から、何者かの手が『生えている』―――ッ!! "ドッバアァアアアア―――z_____ッ!!" 「なッ……ぁ、ぁああ……ッ!!?」 突如、何の前触れもなく自身の体の内側から走った衝撃に視線を降ろせば、何者かの腕が胸から突き出ていた。 肉体を突き破って出てきたものではない。しかし、この手は確かになのはの内部を貫いて出現しているッ! そして、その手のひらの中には、なのはの魔力の源である『リンカーコア』があった。 貫いていたのは『肉体』ではなく『魔力的器官』だ。 「な……なのはァアアアアーーーッ!!」 ある種凄惨な光景に、それを見てしまったフェイトが悲壮な叫びを上げた。 しかし、助けに行きたくとも、シグナムがそれを許さない。 「う……あ、あ、ぁあああ……っ」 全身を襲う脱力感と内臓に直接触れられているような激痛を感じながら、なのはは思考を回転させた。 SLBは……『撃てる』! 依然、魔力は集束中! だが、自身の魔力が猛烈な勢いで減少している。『行動』しなければ、今動けるうちにッ! すぐにでも気絶してしまいそうな、断末魔の一瞬! なのはの精神内に潜む爆発力がとてつもない冒険を生んだ。 普通の魔導師は追い詰められ、魔力が減少すればリンカーコアを庇って逃げようとばかり考える。 だが、なのはは違った! 逆に! 『な、何……この子!?』 遠く離れたビルの屋上から、なのはのリンカーコアをデバイス『クラールヴィント』によって掴んでいたシャマルも、その変化に気付いた。 「レイジング……ハート、『バインド』……ッ!!」 なのはは自らの心臓とも言うべきコアを握り締めた敵の腕を、逆にバインドで自らの体ごと縛り付けて、固定したのだ! 「馬鹿な、正気か……っ?」 「なのは、なんて事を……!」 それと見たシグナムとフェイトも戦闘を中止するほどの、驚愕の判断だった。 自分のリンカーコアを握る相手の腕を、逆に『固定』する。普通の者はそんな判断は下さない。 実際に、なのはも一人で戦っていたのなら、こんな無茶はしなかっただろう。まず、ダメージを最小に押さえる事を考える。 しかしッ、なのはは本能で理解していた。 感覚で分かる。魔力が吸い上げられる感覚、この手は自分の魔力を『吸収』している! (これは……『この攻撃』はマズイッ! 魔力弾とか結界とか、そういう魔法攻撃じゃなく、この全く違う『攻撃』は危険だ……ッ!) 敵を倒す為の手段ならば、コアを捉えた時に全ては決している。 だが、敵はコアを潰すのではなく吸収する事を選んだ。 その行為にどういう『目的』があるのかは分からない。しかし、魔力を『奪う』という手段が、計り知れない『大きな目的』に直結しているのだと、なのはは直感した。 この『敵』、この『目的』を放置しておくのは危険だ。ここで倒しておかなければならない―――ッ! なのはは、己の直感に従って、そう判断したのだった。 「目標、変更……既に、『位置』は掴んでいるの……ッ!」 『……! い、いけない!!』 レイジングハートの砲口が向きを変える。 シャマルは我に返った。あの少女は、自分を捉えている。自分は既に狙われている、と! 「スター……ライト……ッ」 「シャマル!」 冷静に動けたのはザフィーラだけだった。 アルフとユーノを弾き飛ばし、全速力でシャマルの元へ駆けつける。 「ブレイカァァァーッ!!」 次の瞬間、桃色の閃光が一直線に空間を切り裂いた。 『シャマル、無事か!?』 『……ええ、なんとか。寸前でザフィーラが防御してくれたわ』 『だが、逸らすので精一杯だった。おまけに、俺もダメージを受けた。とんでもない威力だ、片腕が動かん』 爆光の後、すぐさま念話を飛ばしたシグナムの心に仲間の声が返ってくる。 シグナムは安堵した。 ヴィータの消息も不明な今、これ以上仲間を失うのは御免だった。 そして今、もう一つの意味でも安堵していた。 なのはは、SLBを放つと同時に、力尽きて倒れ伏していた。 「さすがに、無茶をしすぎたようだな。だが……正直冷や汗をかいたぞ。恐ろしい発想と度胸を持った魔導師だ」 「な、なのはぁ~……」 一方のフェイトはシグナムとは全く正反対の心境だった。 「わ……私、どうすれば……? な、なのはが……嘘だ!」 「……どうやら、あの魔導師がいなければ本当に何も出来ないようだな」 未だ戦える状態にありながら、既に戦意喪失してうろたえるしかないフェイトを冷めた目で一瞥し、シグナムはレヴァンティンを構えた。 予想外の事態はあったが、魔力は十分に手に入れた。あとはヴィータを回収して、増援が来る前にここから逃走するだけだ。 「ザフィーラとヴィータの容態も気になる。さっさと済ませるか……消えろ!」 目の前にシグナムが迫っても、もはや震えることしか出来ないフェイトに向かって無慈悲に剣を振り上げる。 ―――しかし、突如下方から閃光が飛来し、シグナムは反射的にそれを回避した。 「何……っ!?」 「……え?」 フェイトから離れたシグナムを、更に別の閃光が襲う。 桃色の光を放つ魔力弾。それが四つ、ミサイルのように自在に軌道を変えて、シグナムに襲い掛かっていた。 それはッ、間違いなくなのはが持つ魔力の光! 彼女の魔法『ディバインシューター』だったッ!! 「な……」 フェイトは目を見開いて、魔力弾の飛来した方向に視線を走らせた。 「ディバイン……シュー……ター……」 「なのはァアァァァ―――ッ!!」 起き上がる事も出来ないほど衰弱した体で、しかしなのはは半ば無意識に魔法を使い続けていた。 朦朧とする意識で操作されているとは思えないような正確さと、獣のような獰猛さで、ディバインシューターは逃げ回るシグナムに追い縋っていく。 「うっ、ううっ……。本当に、その通りだったんだね……なのは」 フェイトは、ボロボロになりながらも戦うなのはの姿に溢れる涙を堪えきれず、震える声で呟いた。 脳裏に、かつてなのはと戦った時の事が思い出される。 あの時、なのはの示した『覚悟』が。その時、なのはが言葉にした『覚悟』が。 「『いったん食らいついたら、腕や脚の一本や二本失おうとも決して『魔法』は解除しないと』私に言った事は!」 海上での戦い。事実上、なのはとの最後の戦いになったあの時、彼女の叫んだ言葉が鮮明に浮かんでくる。 その言葉は、あるいは冷酷な響きを持っているのかもしれなかった。 ―――しかし、同時にフェイトは別の言葉も思い出していた! なのはが、厳しさだけではなく、途方もない優しさを抱えている事を実感した時の言葉も! 全ての出来事が終わり、一旦のの別れとなった、二人で会ったあの時の事―――。 「これから、もうしばらくお別れになっちゃうね……なのは」 「……うん」 「私ね、なのはと友達に……なりたいな」 「……」 必死に言葉を紡ごうとするフェイトの様子に、なのははチラリと一瞥を向けただけだった。 「でも、私、友達になりたくても、どうすればいいかわからない……。だから、教えて欲しいんだ、どうしたら友達になれ―――」 「ねえ、フェイトちゃん。さっきからうるさいよ 『友達になりたい』『友達になりたい』ってさァ~~」 「え……」 無言のなのはに不安になり、捲くし立てるように喋っていたフェイトは、突然遮ったなのはの突き放すような言葉に凍りついた。 恐る恐る顔を上げれば、なのはは戦った時のような強い視線で自分を見つめている。 その強すぎる意志の瞳を、フェイトは睨まれているのだと感じた。 「どういうつもりなの、フェイトちゃん。そういう言葉は私達の世界にはないんだよ……。そんな、弱虫の使う言葉はね……」 「ご、ごめんなさい……っ!」 なのはの強い口調に、フェイトは絶望的な気持ちになりながら俯いた。 拒絶されたのだと、考えた途端に涙が溢れてくる。 友達になりたいなどと、なんておこがましい考えだったのか。フェイトは自分が分不相応な領域に踏み込んでしまったのだと感じた。 ……だが、そんな弱気な考えに沈んでいくフェイトを意に介さず、なのはは告げた。 「ごめんなさい……もう友達なんて欲張りな事言わないから……っ」 「『友達になりたい』……そんな言葉は使う必要がないんだよ。 なぜなら、わたしや、わたしの親しい人達は、その言葉を頭の中に思い浮かべた時には! 実際に相手を抱き締めて、もうすでに終わっているからなの―――」 そして、なのはは泣きじゃくるフェイトを強く抱き締めた。 「え、なのは……?」 「『友達になりたい』と心の中で思ったのなら、その時スデに絆は結ばれているんだよ」 そう言って笑ったなのはは、やはり、いつもの幼い少女の顔ではなかったが―――フェイトの全てを包み込むような、黄金の輝きを放つ笑顔を浮かべていた。 「な、なのはァァ~……ううッ」 「フェイトちゃんもそうなるよね、わたしたちの友達なら……。わかる? わたしの言ってる事……ね?」 「う……うん! わかったよ、なのは」 「『友達だ』なら使ってもいいッ!」 今度は嬉しさで泣きじゃくるフェイトの体を抱き締めた、小さいけれど大きく、暖かいなのはの腕を、今でもはっきり覚えている―――。 「―――わかったよ、なのは! なのはの覚悟が! 『言葉』ではなく『心』で理解できたッ!」 ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ そして、フェイトは変貌していた。 その『面がまえ』は、10年も修羅場を潜り抜けてきたような『凄み』と『冷静さ』を感じさせる。それは、はっきりと『成長』だった。 もう、プレシアの影を追い続ける泣き虫のママッ子(マンモーニ)なフェイトはいなくなったのだ! 「『友達になりたい』と思った時は、なのはッ!」 『<Scythe form> Setup!』 フェイトの戦いの意思に呼応し、バルディッシュがフォームを変化する。 「―――すでに私達は絆で結ばれているんだね」 かつてない速度で飛翔する。 本来の戦闘スタイルを取り戻したフェイトは、かつてなのはと戦った時と同等……いやかつて以上のスピードでシグナムに肉薄した。 レヴァンティンの刃と、バルディッシュの光刃が激突する。 「何、この気迫……! さっきとはまるで別人だ!?」 『シグナム、聞こえる? ザフィーラとヴィータを連れて逃げたいんだけど、ダメなの! まだ私の腕は固定されているみたいなのよ!!』 眼前に迫るフェイトと聞こえてきたシャマルの念話に、歴戦のシグナムをして冷たい戦慄が走り抜けた。 「やるの……フェイトちゃん。わたしは……あなたを、見、守って……いる、よ……」 ―――もはや半ば気を失いながら、魔法を行使し、且つ自分の命を鎖にして敵を捉える続ける少女の覚悟。 ―――僅か時間で、臆病な弱者から戦士へと変化した目の前の少女の成長。 シグナムは自らの体験している出来事が、まったく未踏の領域にある事を理解した。 苦境には何度も立たされた。命がけの戦いにも挑んだ。 だが、今自分が目にしているものは、それらとは全く種類が違う『脅威』だ―――! 「何者だ……お前達は!?」 「なのはが選んだ……『撃退』じゃなく『撃破』! アナタたちはここで倒すッ! 私はフェイト・テスタロッサ! 高町なのはの『友達だ』―――ッ!!」 バ―――――z______ン! リリカルなのはA s 第二話、完! 戦闘―――続行中!! ヴィータ―気絶中。 シャマル―拘束中。 ザフィーラ―負傷。なのはのバインドを解除作業中。 アルフ、ユーノ―負傷、気絶中。 なのは―昏睡状態。しかし、魔法は依然継続中。 to be continued……> 前へ 目次へ 次へ
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【レヴァンティン@魔法戦記リリカルなのはForce】 シグナムの用いる、古代ベルカ式の刀剣型アームドデバイス。 基本形態である刀剣型のシュベルトフォルム、鞭状の連結刃型のシュランゲフォルム、 弓型のボーゲンフォルムの3形態を持ち、遠・中・近の全距離に対応することができる。 【銀十字の書@魔法戦記リリカルなのはForce】 古代ベルカの魔導書を参考とした、リリィ・シュトロゼックの武器管制システム。 リリィの存在なしには制御することができず、暴走状態に陥ってしまったこともあった。 戦闘時には、魔導書のページを分割し、無数に展開して使用することができる。 【カレンの刀@魔法戦記リリカルなのはForce】 カレン・フッケバインの私物。何の変哲もない日本刀。 カレン自身は気に入っていたようだが、強度は至って普通のようで、戦闘中にあっさりと破壊されている。
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高町なのはとフェイト・ハラオウンは前回の戦闘から後、ずっと同じ悩みを抱えていた。 新調と共に性能が向上した相棒達を手に、意気揚々と守護騎士達へと挑んでいった、前回の戦い。 今度こそ彼女達を止められると思っていた。今度こそ話し合えると思っていた。 だが、その先に待っていたのは勝利ではなく、手痛い敗北。 フェイトは烈火の騎士の策謀により敗れ、クロノは乱入者の手により撃墜された。 完敗だった。 これで二度目の敗北、力が無ければ守護騎士達を止める事はもちろん話し合う事すら出来ない。 更なる力を、二人は欲していたのだ。 フェイトは病室で安静を強いられている間ずっと、なのはは平穏な日常の中でずっと、考え続けていた。 どうすれば強くなれるのか。守護騎士達を、止められるだけの力はどうすれば手に入るのか。 フェイトが退院を果たしたその日、二人はこの先どうすれば良いのかを話し合う為に、高町家へと集まった。 そして、前回の戦闘が記録された映像データを見直し、自身達の至らぬ点と敗因を調べていった。 勿論その映像の中には、クロノが撃墜される瞬間やフェイト自身が撃墜される瞬間が鮮明に記録されており、それ等のシーンを見る度に二人は陰鬱な表情を浮かべていた。 そうして見終えた映像データ。 映像の終了と共に、二人はどちらともなく溜め息を吐いていた。 至らぬ点は山のように存在した。だが、それらの点が直接敗因へと繋がっている訳では決して無い。 フェイトも撃墜されたとはいえ、ヴァッシュの活躍によりその穴は完全以上にフォローされた。 一度見直してみても自分達は優勢であったと、なのはとフェイトは感じていた。 敗因はただ一つ、終盤にて唐突に現れた一人の男。 易々とクロノを撃墜し、ヴァッシュを打ち倒し、十数人の魔導師が形成した強固な結界魔法を一撃で切り裂き、あの完全包囲の状況からの逃亡を容易く果たした男。 それは、二人の目から見ても異質な存在であった。 この男が居なければ恐らく、自分達は守護騎士達の目論見を阻止する事が出来ていた筈。 殆どチェックメイトとも云えた戦況が、一人の男の手により惨敗へと転がり落ちていったのだ。 改めて客観的に見てみると分かる。それはまさに悪夢のような出来事であった。 得なければならないのは、更なる『力』。 守護騎士も、あの謎の男だって止められる『力』。 高町なのはとフェイト・ハラオウンは苦渋の敗北から自身の弱さを知り、心の底から『力』を欲した。 そして、彼女達が考え付いた、更なる『力』を手に入れるその方法とは――― □ ■ □ ■ この日の管理局本局はある種の緊張感が漂っていた。 いや、緊張に身体を固まらせている者が多数いると言った方が良いか。 そこら辺を歩く隊員の半数程が、そわそわと落ち着かない様子を見せていた。 それもその筈。本日の管理局本局にはある有名士官が訪来する予定なのだ。 その有名士官とは、管理局に入隊した者ならば殆どが知っている人物であった。 ある者は尊敬をある者は畏怖を……それぞれがそれぞれの想いでその士官を出迎えようとしていた。 「だぁ~かぁ~らぁ~、僕は嫌なの! 何が楽しくてそんな危ない事をしなくちゃいけないのさ!」 そんな緊迫感が充満する管理局の中、その男は普段通りの恰好心持ちで歩いていた。 男の姿はド派手の一言。天へと伸る金髪とその痩躯を包む赤コートが、見る者全ての眼に突き刺さる。 何だあの恰好は? と、道行く人々の殆どが困惑を浮かべる。 お洒落な姿の若者達が闊歩する市街地ならまだしも、殆ど全員がお決まりの軍服を身に纏っている管理局ではその姿は取り分け目立っていた。 道行く人々の視線を集めつつ、男は後ろに数人の少年少女を引き連れながら白色の廊下を進んでいく。 「良いじゃないですか、ヴァッシュさん! 減るものでもないし」 「減る減らないの問題じゃないの。怖い、痛そう、やりたくない。てか、君達だって充分過ぎる位に力を持ってるだろ? これ以上つよくなってどーすんのさ」 「……私達はまだ弱いよ。弱いから強くなりたいんだ。強くなくちゃ、シグナム達は止められない」 「フェイトちゃんの言う通りです。このままじゃ……ダメなんですよ。もっと、もっと、もっと強くならなくちゃ。そうじゃなきゃ、ヴィータちゃんも、誰も、止められないんです」 男―――ヴァッシュはなのはとフェイトの言葉に思わず押し黙ってしまう。 ただ単純に、意志も理由もなく力を求めるだけだったら、ヴァッシュが彼女達の要望に応える事はなかっただろう。 しかし、彼女達は違う。 他を護る為に、力を欲している。敵である筈の守護騎士達を止めたくて、その為に、力を欲している。 それはまるで、人々を護る為に銃をとったある男のように。 それをヴァッシュも気付いている。気付いているからこそ、口では反対しながらも、本気で拒否をしようとしない。 半ば引きずられるように、殆ど無理矢理にではあるが、何やかんやでなのは達の言う通りに管理局本部まで来てしまっている。 「フェイトがこれだけ頼んでんだ、良いだろヴァッシュ! 見舞いにだって一度も来なかったんだし」 「うっ……い、いや、そこをつかれるとキツい所だけどね、アルフ」 「良いじゃないか。フェイトもなのはもちゃんとした考えが在っての事だ。修行を付けてやれば良い」 「ク、クロノまで……。で、でも、そう都合よく訓練室があいてるとは限らないじゃん。僕の得物を他の人に見せる訳にはいかないし」 「その辺は心配しなくても良い。執務管権限だ、数日くらいなら貸切出入り不可にだって出来る」 「だってよ、ほら何も問題無し。さ、フェイト達に修行付けてあげてよ」 「あ~、あ~! それって職権乱用じゃないか!」 「僕は使える権利を使っているだけだ。何も悪い事はしていない」 「クロノ……ユーノは僕の味方だよね」 「は、はぁ……確かに可哀想だとは思いますけど……」 四人の少年少女に一人の使い魔、更にそこに加わるはド派手な金髪頭……当然の事ながら周囲から浮きまくっているその集団。 道を歩けば誰しもがその集団へ視線を向ける。人々の注目を一心に集めながら、集団はギャアギャアと騒がしく進んでいく。 ―――そんな彼等を遠巻きに眺めている老女が居た。 「あら、あの子達は……」 好奇の表情で集団を見詰める人々の中に、その老女は紛れていた。 団子結びにされた白髪に、数々の皺が刻まれた顔。 その顔には柔和な微笑みが張り付いていて優しげな印象を他者に与える。 動きはゆったりと落ち着きに包まれていて、だがその立ち居振る舞いには無駄がない。 「そう、彼女達がPT事件を解決した」 老女は赤コートの男の後ろを歩く二人の少女を見詰めながら、一人言葉を零す。 その瞳はまるで子供を見守る母親のように暖かく、それでいて綺麗な宝を目の前にしたかのような喜びに満ちていた。 老女は左腕に巻かれた腕時計で時間を確認。まだ予定の時間まで暇がある事を確かめ、行き先を変更する。 その顔に浮かんだ悪戯っ子のような微笑みに、気が付く者はいなかった。 □ ■ □ ■ 「じゃ、僕達は此処で観戦させて貰ってるよ。二人とも頑張ってくれ」 「頑張ってね、フェイト!」 「なのはも頑張って。……それと怪我しないよう気をつけて下さいね、ヴァッシュさん」 数分後の管理局本部・訓練室。 備え付けのスピーカーから聞こえた観戦者達の声は、言うだけ言って直ぐに切れてしまう。 どうしてこうなった、と心中で呟きながらヴァッシュは溜め息一つ。 うつむき気味だった顔を上げて、前方に立つ二人の魔法少女へと視線を向ける。 それぞれのデバイスを起動させ、バリアジャケットも形成し終えている二人。表情もマジ、その様子は完全に臨戦態勢といった様子であった。 そんな二人を見て、再び溜め息一つ。そしてヴァッシュは意を決した。 大きく息を吸い込み腹の底に力を溜め、二人をしっかりと見詰める。 「えー、それでは今から訓練を始めさせて頂たいと思います。ちなみに、僕は誰かに物を教えるなんてしたことがないし、魔法も使えない。 だから僕は、僕の経験に基づいた『強くなる方法』しか教える事が出来ないし、それで本当に君達が強くなれるかは分からない。 それでも良いっていうんなら、僕は君達の訓練に付き合おうと思う。以前、僕の魔法訓練にも付き合ってくれた事だしね」 「「はい、よろしくお願いします!」」 「ハ、ハハ、本当にやる気満々だね……」 元気一杯の返答に引きつった笑みを浮かべながら、ヴァッシュは自身の拳銃を取り出した。 そのトリガー部に人差し指を引っ掛け、器用にクルクルと回転させる。 「そうだね、先ずは君達の実力が知りたい。初めは、軽く模擬戦といこうか」 そのまま拳銃を弄ながら、ヴァッシュは口を開いた。 引きつった笑みは何時しかなりを潜め、及び腰だった身体も今や自信に満ち溢れている。 「ルールは簡単。協力してでも良いから、僕に一度でも攻撃を命中させられれば、君達の勝ち。僕は……そうだな、君達に向けて六回引き金を引ければ勝ちって事でどうだい?」 そう言うヴァッシュの表情に普段のおちゃらけた雰囲気は欠片も存在しなかった。 真っ直ぐに真剣な瞳で二人の魔導師を射竦めながら、拳銃から六発の弾丸を抜き、ホルスターへと戻す。 その視線を受けた魔導師達も、ゴクリと唾を飲み込み、それぞれの相棒を両手で握る。 彼女達の見た事のない彼が、そこに立っていた。 名前一つで砂の惑星を震撼させるガンマン・『人間台風(ヒューマノイドタイフーン)』がそこには立っていた。 「OKかな? それじゃあ、模擬戦開始だ」 人間台風の口から開戦の合図が飛び出た瞬間、なのはとフェイトの二人は行動を開始していた。 なのはは、両の足首に備わった桜色の翼を羽ばたかせ上空へ。 フェイトは、地面を蹴り抜くと同時に高速移動魔法を使用してヴァッシュの背後へ。 それぞれの攻撃を命中させる為に行動を開始し―――だがそれよりも早く、ヴァッシュの右手が動いていた。 「1、2」 なのはがアクセルフィンを稼働させるよりも早く、フェイトがソニックムーヴを発動させるよりも早く、ヴァッシュは拳銃を抜いていた。 そして、銃口をピタリと二人へ向け、引き金を二度引く。 「これで、二回アウトだ」 笑顔と共に紡がれた言葉は、二人の魔導師を驚愕させるに充分過ぎた。 一歩とすら、動く事が出来なかった。いや、動くどころの話ではない。知覚する事だって出来なかった。 動き出そうと身体に力を込めたその時には、白銀のリボルバーが此方を向いていたのだ。 高速戦闘に慣れた魔導師ですら知覚不能の早撃ち。それがヴァッシュの持つ、単純明快ながら最強の必殺技。 勿論、なのは達もその早撃ちを警戒していた。 警戒していたからこそ、初手で先ず距離を離そうと、死角へと回り込もうと、思考していたのだが―――その早撃ちは二人の予測を遥かに上回っていた。 (これが……ヴァッシュの、本気。シグナムを倒した、技) 雷光の魔導師は突き付けられた銃口を前に、思わず感嘆の感情を沸き立てていた。 シグナムが倒される映像を通して、この早撃ちを何度も見て来た。 自分が撃墜された後、何が起きたのか。 あのシグナムを、たった一人で、魔法すら使わずに倒したヴァッシュの力とはどういった物なのか。 入院中のベッドの上、バルディッシュにダウンロードした映像で、何度も何度も見て来た。 コレがヴァッシュの力。守護騎士すら圧倒する、魔法とはまた別域の力。 スゴい、とフェイトは素直に感じていた。 (……こんなにスゴかったんだ、ヴァッシュさん……) 横に立つ高町なのはもまた、フェイト同様の驚嘆と、そしてその驚嘆以上の悲しみを感じていた。 以前の世界でヴァッシュがどんな日常を送っていたのか、なのはは彼自身の口から聞いた事がある。 それは銃と弾丸が物を言う世界。土地も、空気も、人々の心すらも渇き切った荒涼の世界。 一欠片のパンを賭けて、コップ一杯の水を賭けて、殺し合いが起きるという、想像すら難しい荒れた世界。 その世界で生き抜く為にはこれ程までの力が必要なのか。 これ程までの力が必要とされる世界でヴァッシュは生き抜いていたのか。 その世界は、こんなにも優しいヴァッシュに銃を持たせ、これ程までの力を求めさせるような世界なのか。 ヴァッシュに対して悲しみが、ヴァッシュが居た世界に対して怒りが、沸いた。 「さ、残りは四回だ」 白銀のリボルバーを突き付けたまま、飄々とした笑顔を浮かべるヴァッシュ。 対する二人も、それぞれの得物を力強く握り締め、薄い笑みを浮かべる。 「いくよ、ヴァッシュ」 「いきますよ、ヴァッシュさん」 少女達から告げられた宣戦布告に、ヴァッシュは笑みを変えずに答えを返す。 「どうぞ、御自由にってね」 その言葉と同時になのはは空へと羽ばたき、フェイトはヴァッシュの背後へと移動する。 なのはは飛行魔法で間合いは空け、フェイトは高速移動魔法間で合いを詰める。砲撃戦と近接戦、二人はそれぞれの得意とする間合いへとヴァッシュを引き込んだ。 「ハアッ!」 ヴァッシュに対する初手は、高速移動の勢いそのままに振るわれた袈裟斬りの一閃。 赤コートの右肩口から左脇腹へと、漆黒の戦斧を斜めに振り落とす。 だがその攻撃は、地面へと張り付くように体勢を下げたヴァッシュには命中せず、そのトンガらがった頭髪を掠めるに終わる。 「3」 直後、フェイトへと突き付けられる銃口。 振り向きもせずに構えられたというのに、その銃口はフェイトへとピタリと矛先を向けていた。 その反応の早さ、狙い付けの早さと正確さに、フェイトの表情が歪んだ。 再度、振るわれるはバルディッシュ。 相対する男との間にあるポテンシャルの差は、十秒にも満たない時間で理解させられた。 しかしながら、勝利への条件はフェイトの方が遥かに有利なのだ、引く訳にはいかなかった。 左足を一歩踏み出し、更に距離を詰めながら重心を低く、前へ。 左足へと力を限界まで溜め込み、一気に開放。手首を返して、振り下ろされていたバルディッシュを逆袈裟に斬り上げる。 シフトウェートを活用しての一撃。その速度は先の袈裟切りよりも更に早く、だがそれでもガンマンは容易く反応してみせる。 平型のバレルを楯のように掲げて、バルディッシュを受け止めた。キィン、という甲高い金属音が訓練室に響き渡る。 (銃身で―――!?) その特異な造形からしてバレル……いや、拳銃自体が相当に頑丈な造りになっているのだろう。 だが、そもそも拳銃のバレルは敵の攻撃を防ぐ為に存在する訳ではない。防いだ所で刃が滑ってしまい、鍔迫り合いに持ち込む事など到底不可能な筈だ。 その筈なのだが、この男はその不可能な筈の事象を、前を向いたまま、易々とやってのけた。 先のシグナムとの戦闘から引き続き、フェイトを相手にも、銃身で近接武器を受け止めるという超絶技巧をやってのけた。 交差したリボルバー銃とバルディッシュを挟んでフェイトとヴァッシュは均衡を見せる。 フェイトが放った渾身の一撃は、ヴァッシュの顔に張り付く余裕の笑みを崩す事すら、出来なかった。 「っとお!」 が、次の瞬間、その笑顔は脆くも崩れ去る事となる。 その笑顔を崩したのは、横合いから飛来した桜色の魔弾。 淡く発光する野球ボール大の球体が、空気を切り裂きながら、数瞬前までヴァッシュの顔面が在った空間を通過していったのだ。 「なかなか容赦のない攻撃するねって、おおおおおおおお!?」 すんでのところで弾丸を回避したヴァッシュは、狙撃主が居るであろう方向へ顔を向け、次の瞬間には絶叫を迸らせていた。 視界に映るは、容赦なく迫る計六発もの魔弾―――アクセルシューター。 上下左右様々な角度から包み込むように時間差で急迫するそれ等を、ヴァッシュは一つ一つ身体を捩って捻って、何とか回避。 「フェイトちゃん!」 全方位から攻撃すらも避けられた事に驚愕しながらも、なのはは攻撃の手を止めようとしない。 意識を集中させ、魔弾を操作し続けながら、フェイトへと声を上げた。 ツーカーで通じ合う二人だからか、ただそれだけの言葉でフェイトもなのはの考えを理解する。 誘導弾の回避に意識を集中させているヴァッシュの、その頭上へと移動するフェイト。 バルディッシュのカートリッジが一回二回とリロードされ、掲げられたフェイトの左手へと金色の魔力が集結していく。 「プラズマ……スマッシャー!!」 放たれるは、電光を纏った直射型の砲撃魔法。 ヴァッシュがその砲撃に気付いたのは発射される一瞬前。しかし、回避をしようにも周囲は誘導弾で囲まれており、迂闊に動く事ができない。 そうこうしている内に発射される砲撃。 閃光と轟音を撒き散らしながら直線する砲撃魔法が、誘導弾の回避に手間取っているヴァッシュへと、唸りを上げて近付いていく。 攻撃の命中を、勝利を、確信するフェイト。 そして、ヴァッシュへと砲撃が直撃する寸前―――ドガンという、耳をつんざく轟音が空気を震撼させ、ヴァッシュの周りを包囲していた魔弾が唐突に消え去った。 同時にプラズマスマッシャーがヴァッシュの立つ地面へと直撃。爆音と爆煙で周辺の全てを覆い隠す。 (避け、られた……!?) 砲撃の先から命中の手応えは感じられない。またもやだ。またもや、寸前で回避された。 完全に逃げ道が絶たれた絶望的な状況から、どんな奇術を用いてか、ヴァッシュは再び回避に至る。 まるで悪夢のようなしぶとさだ。 「まだまだ! エクセリオン、バスター!」 易々と裏切られた確信にフェイトが動きを止める最中、なのはは攻勢を緩めようとしなかった。 濛々と立ち込める砂埃の中心へと、全力の砲撃を叩き込む。 なのはには確信があった。アクセルシューターが消滅させられたその時には、ヴァッシュが必ずフェイトの砲撃を回避するという確信が。 だからこそ、攻撃の手を止めずに砲撃を撃ち込む。 攻撃範囲を優先させた砲撃で、点ではなく面でヴァッシュを追い立てる。 「4、」 桜色の極光が砂埃そのものを吹き飛ばす寸前、砂埃から横っ飛びに飛び出す人影があった。 その人影は地面と平行に身体を投げ出しながらも、空中に茫然と浮かぶフェイトへと銃口を合わせており、一回引き金を引く。 「5!」 そして、右肩から地面へと落下しながら、銃口を移動。 砲撃を撃ち放っているなのはへとその矛先を向け、再度引き金を引いた。 「これで5回アウト―――あと1回でゲームオーバーだ」 前転の要領で横っ飛びの勢いを殺したヴァッシュは、地面へと右膝を付けた体勢で座り込み、チェックメイトを宣言する。 全方位から迫るアクセルシューターを消滅させたのは、ヴァッシュが行った超速の銃撃。 上空で砲撃の体勢を取るフェイトを視認したその瞬間、ヴァッシュはクイックローダーを使用し、閃光の如く速度で弾丸を補充。 上下左右で飛び回る六発の魔弾を瞬く間に撃ち落として、プラズマスマッシャーを回避。 そうして、続いて発射されたエクセリオンバスターを横っ飛びで避けながら、二人を狙撃。 数秒の戦闘でヴァッシュが見せ付けたのは、人間離れした反射神経と動体神経、銃技。 クロスレンジでの攻撃も、砲撃魔法も、誘導型射撃魔法も、コンビネーションアタックすらも、当たらない。 全てを見切り、際どいながらも全てを避けきる。 これぞまさにザ・スタンピードの面目躍如といった所か。 「……なのは、一気に攻め込もう」 「うん、全力全開でいくよ」 砂の惑星で発生する争い事に首を突っ込んでは場を掻き回し、逃げ回り、何だかんだで終結へと収めていく。 そんな日常を送り続け、それでも尚生き延びてきたヴァッシュだからこその、驚異的しぶとさ。 そのしぶとさを前にして、魔導師達も最後の賭けへと打って出る。 このままでは敗北は必至。せめて、せめて一矢を報いたい。 そう思う二人は、ほぼ同時に動き出す。 『Sonic move』 『Accel Fin』 互いに挑むは近接戦。 フェイトはクロスレンジからの直接攻撃を、なのははクロスレンジからの零距離砲撃を、唯一の勝機と考える。 ヴァッシュの銃技と反射神経の前に、遠距離、中距離からの射撃砲撃魔法は余りに部が悪い。 ならばと開き直っての近接戦闘。 その場から消え失せたと錯覚する程の加速を持ってフェイトがヴァッシュへと肉迫し、バルディッシュをその脳天へと振り下ろす。 その一撃は身体を捻るだけで回避されるも、回避により生まれた隙を突いて、ワンテンポ遅れて飛来したなのはがレイジングハートを突き付ける。 既に発射シークエンスは整っている。 あとはなのはが一念するだけで桜色の奔流が撃ち出されるのだが―――それよりも早くヴァッシュが動いた。 右手の拳銃をレイジングハートへと横殴りに叩き付け、射線を無理矢理にズラしつつ、銃口をなのはへと定める。 「Jack Pot―――「まだ!」 今回、勝利への確信を裏切られたのはヴァッシュの方であった。 決め台詞と共に引き金を引き絞ろうとしたその時、リボルバーに大きな衝撃が走り、銃口があらぬ方向へとそっぽを向く。 逆に突き付けられるは、赤色の宝玉と金色の装具。 なのははヴァッシュの行動に反応し、対応をしてみせたのだ。 唐突に発生したレイジングハートへの横ベクトルに、体勢を崩し欠けるなのはであったが、両脚に力を込め何とか持ち直す。 続いて腰を軸に身体を回転させ、レイジングハートの穂先でヴァッシュのリボルバーを弾き、逆に砲口を突き付け返した。 この反撃は予想していなかったのか、ヴァッシュの顔に驚きの感情が浮かぶ―――が、直ぐさま拳銃を操り、真横から砲口を打ち据える。 三度ズレる射線。 今度の一撃にはなのはも即座の対応ができない。何とか体勢を直そうとするも、遅過ぎる。 そうこうしている内に引き金は引かれてしまい、 「6。僕の勝ちだね」 魔法少女達の敗北が決定された。 口惜しげに俯くなのはとフェイト。そんな二人へと交互に視線を飛ばしながら、ヴァッシュは口を開く。 「まぁまぁ、そう落ち込まない。なかなかどうしてやるもんだよ。何回かヒヤリとするとこもあったし」 拳銃を中折りし、リボルバーへと弾丸を補充しながらヴァッシュは飄々とした笑みと共に語っていく。 「それに言ったでしょ、この模擬戦はまだ初まり。本番はまだまだこれからだよ」 この模擬戦を通してヴァッシュは二人の実力を、そして将来開花するであろう才覚を知った。 ヴァッシュはただのガンマン。人の指導など殆どした事がない。 だから単純に、考えた。この才覚を伸ばしてやれば良いんだと、考えた。 「さあ、特訓開始だ!」 ホルスターへと戻される白銀のリボルバー。 ヴァッシュは朗らかな笑顔と共に高らかな宣告を発した。 高らかに声を上げるヴァッシュを見詰めながら、フェイトは思う。 この圧倒的な力に僅かでも良いから近付きたいと、フェイトは思う。 守護騎士達を止める為、アンノウンと称される謎の男を止める為―――フェイトは力を欲した。 今回の闇の書に関する事件、自分は管理局の魔導師として戦いに挑んでいた。 最初は親友を助けたい一心で、今は世界を守る為、そしてこんな自分に暖かい世界を教えてくれた皆の為、血塗られた力で戦う事を決意した。 でも、その先に待ち受けていたものは二度の敗北。 一度目の戦闘はデバイスの性能差が如実に出たと言えるかもしれない。カートリッジという未知の武装に追随する事が出来なかった。 ただ二度目の戦闘は完全に自身の油断が招いた結果だ。 二対一という有利な状況、ヴァッシュの助けもありあのシグナムを戦闘解除寸前にまで追い詰めたのだ。 なのに、だというのに、一瞬の隙を突かれ逆転された。 悔やんでも悔やみきれない、重く大きな罪悪感がフェイトの心を縛り付けていた。 だから、力を手に入れようと思った。 少しでもヴァッシュの手助けが出来るよう、力を手に入れようと思った。 守護騎士すら撃墜するその力に、少しでも近付きたいと思った。 フェイトは、思う。 強くなってみせると―――フェイトは思った。 高らかに声を上げるヴァッシュを見詰めながら、なのはは思う。 この圧倒的な力に僅かでも良いから近付きたいと、なのはは思う。 守護騎士達を止める為、アンノウンと称される謎の男を止める為、そして何よりヴァッシュの力になる為―――なのはは力を欲した。 ヴァッシュは全てを背負おうとする。 他人から力を借りようともせず、悩みを打ち明けようともせず、ただ一人全てを背負い込んで苦悩する。 アンノウンとヴァッシュの間に何らかの因縁が存在する事は、なのはも気付いていた。 アンノウンと遭遇したその夜から、ヴァッシュが険しい顔を浮かべるようになった事も、なのはは気付いていた。 問い掛ける事は出来なかった。 励ます事も出来なかった。 普段見せる明るい表情とはまるで違う、寒気すら覚える程に張り詰めたヴァッシュの表情に、言葉が見つからなかったのだ。 だがら、力を手に入れようと思った。 少しでもヴァッシュの手助けが出来るよう、力を手に入れようと思った。 守護騎士すら撃墜するその力に、少しでも近付きたいと思った。 なのはは、思う。 強くなってみせると―――なのはは思った。 ―――彼女達が最強へと至る為の長く険しい道。 ―――その道の終点に辿り着くまで、彼女達は数多の苦難を、苦境を、死線を潜り抜けていく事となる。 ―――だが、これが、この模擬戦こそが、第一歩目であった。 ―――彼女達が最強へと至るその道の、第一歩目であったのだ。 前へ 目次へ 次へ
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留置場で、アギトは一人うずくまっていた。こうしていると、脳裏にゼストの死に様がまざまざとよみがえってくる。 かすかな羽音に耳を澄ますと、画鋲に羽が生えたような虫が空を舞っていた。ルーテシアの召喚虫インゼクトだ。 「よお、ルール―。もう知ってると思うけど、旦那が殺されたよ。あの変態医師の一味に」 アギトは力なくインゼクトに話しかける。 「私は旦那の敵を討つよ」 インゼクトが動揺するように揺れた。 「別にルールーに手伝って欲しいなんて言わないよ。私らと違って、あいつらと仲良かったしな。ただ邪魔はしないで欲しい。約束するよ。仇を討ったら、絶対にルールーのところに帰る。ルールーのお母さんについても、助けてもらえるよう交渉するから」 インゼクトは逡巡するように天井をさまよっていたが、やがて留置場の外へ出て行こうとする。 「待った」 それをアギトは呼び止めた。 「ルールーのデバイス、アスクレピオスもしばらく使わないで欲しい。変態医師の作品だからな。どんな仕掛けが施されてるかわかったもんじゃない」 インゼクトは頷くように一度上下すると、留置場から去っていった。後にはうずくまったままのアギトが一人残された。 六課隊舎の広めの部屋で、フォワード隊員と聖闘士たちが、一緒に朝食を取っていた。スバルとエリオが見た目に似合わず大食感なので、食卓には料理が山盛りに盛られている。ちなみに今回も出前だ。 賑やかに食事が進む中、氷河は一人黙々と食事を終えると、早々に席を立ってしまう。 そんな氷河の背を、キャロは視線で追った。 「どうかしたか?」 口いっぱいに料理を頬張った星矢が訊いてきた。 「いえ、氷河さんってクールって言うか、ちょっととっつきづらい人だなと思って」 明るい星矢に、誠実な紫龍、優しい瞬と比べると、氷河は不愛想だった。時折、険呑な気配を漂わせているので、話しかけることもままならない。 「それはしょうがないな。氷河の師匠は、アクエリアスの黄金聖闘士だったんだ」 十二宮の戦いで、氷河に凍技の極意を教えて、アクエリアスのカミュは散っていった。その心の傷も癒えぬうちに、師匠の聖衣が盗まれ、悪事に利用されている。氷河としては、一刻も早く取り戻しに行きたいのだろう。 「その気持ちは俺も同じだ。老師のライブラの聖衣が悪人に使われているなど、我慢ならん」 紫龍の発言に、星矢と瞬が同意するように頷く。命を賭して戦った黄金聖闘士たちを汚されているようで腹立たしい。青銅聖闘士の気持ちは多少の差こそあれ、皆同じだった。 氷河が扉を開けて出ていこうとすると、飛び込んできた小さな影とぶつかった。見下ろすと、赤と緑のオッドアイの少女が、泣きそうな顔で尻もちをついていた。 「ふえ……」 転んだからではなく、氷河に怯えているようだった。そこまで怖い顔をしていたかと、氷河は反省した。 「ヴィヴィオ!」 フェイトが血相を変えてやってきて、ヴィヴィオを抱き上げる。襲撃事件からこっち、病院で昏睡状態が続いていると聞いて心配していたのだ。 「よかった。元気になったんだね」 「フェイトママ~」 ヴィヴィオは泣きながら、フェイトの首筋にしがみつく。 「……氷河」 「すまない。少し気が立っていたようだ」 フェイトの咎めるような視線に、氷河は素直に謝る。 「心配しなくていい。別に君に怒っていたわけじゃない」 氷河はしゃがみ、目線の高さをヴィヴィオと合わせる。 「ホント?」 フェイトの後ろに隠れながら、ヴィヴィオがおずおずと氷河の顔色をうかがう。 「ああ」 氷河が優しく笑いかけると、ヴィヴィオはわずかに警戒を解く。これでもシベリアの修行時代は、近くの村の子どもに慕われていたものだ。子供の扱いには慣れている。 「ヴィヴィオ、どうかしたの?」 「なのはママ!」 ヴィヴィオは、とてとてとなのはの元へ走り寄っていく。 「マーマ? 君にはマーマが二人いるのか?」 氷河は、フェイトとなのはを交互に見た。 「ヴィヴィオは、私となのはで預かっているんです」 氷河はそれだけでおおよその事情を察した。 「ヴィヴィオは、マーマたちのことは好きか?」 「うん。なのはママもフェイトママも大好き」 「そうか。君は幸せだな」 「お兄さんのママは?」 「遠い所に行ってしまって、もう会えないんだ」 極寒の海に沈んだ船の中で、花に囲まれて眠る美しい母の姿を、氷河は思い出す。今では船は更に海底深くに沈んでしまい、もう会うことはできない。 「そんな……」 涙ぐむヴィヴィオを、氷河がなでてやる。 「優しい子だな。悲しむことはない。マーマとの思い出は、いつも俺の中にある」 ヴィヴィオが首を傾げる。難しくて、よくわからなかったらしい。 「ヴィヴィオ。もしもの時は、君が二人のマーマを守ってやるんだぞ」 「うん。がんばる」 「……あまり変なこと吹き込まないでくれますか?」 フェイトとなのはが微妙に引きつった顔で、ヴィヴィオを氷河から遠ざけた。 「そろそろどいてもらえるかな。中に入れないんだが」 「シグナム」 フェイトと氷河が扉の前から離れると、シグナムとシャーリーが室内に入ってくる。ヴィヴィオを病院から連れてきたのはシグナムだった。 入院している間も、ヴィヴィオは厳重に警護されていたが、手元に置いておいた方が守りやすい。単純に、目覚めたヴィヴィオが母親を恋しがったからでもあるが。 その頃には、皆、食事を終え、シグナムたちの周りに集まっていた。 「私の名はシグナム。ライトニング分隊の副隊長をしている」 シグナムは室内に入ると、聖闘士たちに挨拶をする。 「……そうだな。ヴィータと同じ存在と言えば、わかってもらえるかな?」 聖闘士たちの間に、妙に納得したような空気が流れる。シグナムも魔法で若返っているのだと、彼らは誤解した。 「…………今、何か失礼なことを考えなかったか?」 「気のせいじゃないか?」 誤解させた張本人であるヴィータが、しらばっくれる。 シグナムは腑に落ちない表情をしたが、気持ちを切り替えて聖闘士たちに向き直る。 「できれば、一度手合わせ願いたいな」 「それはお勧めしないな。こいつら、女相手だと本気出さねぇんだ」 ヴィータが不満げに言った。 聖闘士たちは女が相手だと、明かに攻撃が手緩くなる。最初は魔導師相手に手加減しているのかと思ったが、エリオを相手にした時はしっかり戦っていたので、間違いないだろう。真剣勝負を望むシグナムの期待には、応えられない。 こんな具合でナンバーズと戦えるのかと、ヴィータは一抹の不安を感じていた。 「ほう」 「なんだ。てっきり怒るかと思ったのに」 意外にも、シグナムは好意的な眼差しを聖闘士たちに向けている。 「もし部下や、力のない者が、そんなことを言おうものなら殴っていたがな」 シグナムは古風な人間だ。時空管理局に所属してからというもの、実力や正義感はあっても、誇りや信念を持つ魔導師が少ないことに、内心で嘆いていたのだ。 他人からは無意味なこだわりに思えても、それが力になる時があるのを、シグナムは知っている。 「そして、私がリインフォースⅡです」 「うおっ!?」 シグナムの背後から顔を出した手の平サイズの少女に、星矢たちは一様に驚きの声を上げた。 「へぇ~。こっちは竜だけじゃなく、妖精までいるのか。何でもありだな」 訓練中に見せられたフリードとヴォルテールの映像を思い出し、星矢が感心する。妖精というのも誤解なのだが、星矢の呟きが聞こえた者は誰もおらず、訂正されることはなかった。 「シャーリーは、もう怪我はいいの?」 フェイトが額に包帯を巻いたままのシャーリーを気遣う。 「皆さんのことを考えらたら、寝てなんていられません。少しでもお役に立てればと、こんな物を用意しました」 シャーリーは持っていたトランクの中身を開けて見せる。中には人数分の腕時計が入っていた。 「これって、ストラーダですよね?」 腕時計を手に取ったエリオが首を傾げた。エリオのデバイス、ストラーダの待機フォルムと同じ形をしている。 「はい。簡易量産型ストラーダです。形態変化機能と、人格をオミット。単一魔法の使用のみに特化した形態になっています」 「ソニックムーブや。ただし、安全装置のついとらん旧式やけどな」 はやてが人差指を立てて説明を引き継ぐ。 「安全装置? 旧式?」 「これは一応秘密なんやけど、ほとんどの魔法には、安全装置がついとる」 ソニックムーブは瞬間的に高速移動を可能にする魔法だが、安全装置を解除することで、使用時間と速度を大幅に向上させることができる。 「簡単に言えば、誰でも使えるリミットブレイクみたいなもんや」 「光速には遠く及びませんが、ないよりはましだと思います。ただし、なのはさんのリミットブレイク同様、負荷は比較にならないほど強烈です」 シャーリーは深刻な様子で言った。 おそらく使用は、合計で一時間が限度。それでも負荷が完全に癒えるには、一切の魔法を使用禁止にして、数カ月は療養しないとならないだろう。 魔法文明黎明期、魔導師たちは魔法の性能向上に邁進していた。肉体や魔力の源リンカーコアに、どれだけの負担がかかるかも知らずに。 己の限界も顧みず、無思慮に強力な魔法を使い続けた結果、重篤な後遺症を残す者、再起不能になる者が続出した。当時の時空管理局が規制をかけ、肉体に負担がかからないよう安全装置が設けられてからは、自然と消えて行った大昔の魔法だ。 「技術者として、本当はこんな危険な物を使わせたくないんですが……」 肉体にかかる負担が大きすぎて、試運転もできず、各人用の調整も行えない。ぶっつけ本番で行くしかないのだ。 「私たちも、できれば使って欲しくないかな」 なのはとフェイトの表情も暗い。しかし、使わねばただでさえ低い勝率が、引いては生存確率が低くなる。選択肢はないのだ。 「聖闘士の皆さんは、こちらをどうぞ。余剰部品で作った、ただの通信機兼腕時計ですけど」 星矢たちは、興味深そうにストラーダと同型の腕時計をはめた。聖衣と干渉するので、戦闘中は外すしかないが。 「な、なんか同じ腕時計してると、チームって感じがするね」 「そ、そうですね。テレビのヒーローみたいです」 重たい空気を何とかしようと、スバルとエリオが無理やり明るい声を出す。 「あれ、数が足りなくないですか?」 フェイトとなのはの分がない。 「あ、私たちは自前で加速できるから……」 元々スピードアップの魔法が使えるフェイトたちは、それぞれのデバイスを改良すればいい。エリオも同様だ。 フェイトの発言に、エリオは暗いオーラをまとい部屋の隅でうずくまってしまう。 「ち、違うよ、エリオ。別にエリオとお揃いが嫌ってわけじゃなくてね」 フェイトとなのはが励ますが、エリオはしばらくへこんだままだった。 地上本部襲撃事件から三日が経過した。 時刻は夜の十時。なのはとフェイトは部屋で二人して机に突っ伏していた。別の隊員が利用していた二人部屋なのだが、なのはたちの部屋が壊れてしまった為、仮の宿として使わせてもらっている。 もう一つの椅子の上では、ヴィヴィオがうたた寝をしていた。さっきまで起きていたのだが、限界が来てしまったようだ。 「疲れたね、フェイトちゃん」 「そうだね」 明日の早朝には、アースラが到着する予定だし、アギトの方も協力してもらう方向で話が進んでいる。着替えてとっとと寝た方がいいのだろうが、部屋に戻り、上着を脱いでネクタイを緩めたところで、二人は力尽きていた。 聖闘士たちとの合同訓練は、成果が上がっているとは言い難い状況だった。 ゾディアック・ナンバーズが集団で襲ってきた場合に備え、チーム戦の練習をしたのだが、基本一対一で戦う聖闘士たちに、チーム戦という概念は存在しなかった。 聖闘士同士で組めばできないことはないが、各自が勝手に動いているだけで、互いの長所を生かすような動きはできていない。 聖闘士が前衛で、魔導師が後衛という戦法も試してみたが、聖闘士たちが好き勝手に動くので、誤射が頻発した。 聖闘士たちの力量が、正確に推し量れないのも問題だった。 彼らは十二宮の戦いで、コスモの真髄セブンセンシズに目覚め、黄金聖闘士の域までコスモを高めたが、極限状態にならないと使えないらしく、訓練ではマッハ五が限界だった。 これでは光速で動く相手の練習台にはならない。 「さすがのなのはも、お手上げみたいだね」 「あのタイプの子たちは、相手にしたことないから」 なのははやや自信喪失気味で言った。顧みれば、なのはの友人たちは、アリサ、すずかを筆頭に、ことごとく真面目な優等生だった。 ヴィータとて口は悪いが、言われたことをきちんとやるし、規則の類は決して破らない。ティアナがかつてやった無茶だって、行きすぎたやる気が原因だった。 ふとティアナとの一件を思い出し、なのはは表情に影が落ちる。あれはなのはにとっても苦い思い出だった。 時空管理局はしっかりとした組織だ。上に行くのも、優等生タイプが多い。 優秀な者の中には、天狗になっている者や、教官を馬鹿にする者も混じっているが、そこは一回叩きのめしてあげると、驚くほど従順になる。教官を見返してやろうと、さらに奮起してくれる場合も多い。 なまじ優秀なだけに、力の差には敏感なのだ。 優秀な魔導師は、例えるなら温室栽培だった。別に否定的な意味で使っているのではない。最高の環境で最適な育て方をされて、可能性の種を大きく伸ばしていく。 対して、聖闘士は野の草花だった。どんな劣悪な環境だろうと、命の輝きでしぶとく生き延びる荒々しい植物。 正直、なのははどう接すればいいのかわからない。 「エリオも少し影響を受けてるんだよね」 フェイトも微妙に顔をしかめる。 エリオは仲間に一気に男性が増えたことで、喜んでいるようだった。聖闘士たちも弟ができたかのように可愛がってくれている。 しかし、聖闘士たちは、男は女を守るものと思っているようだ。この調子で行くと、いつかエリオが「六課のみんなは僕が守る」とか言い出しそうで、ちょっと怖い。 エリオのはしゃぎようを見るに、フェイトはこれまでの育て方が正しかったかどうか不安になる。 自分が女系で育ったために疑問を持たなかったが、やはり子供には男親と女親が必要なのではないだろうか。少しでいいから、クロノかユーノに手伝ってもらうべきだったかもしれない。 「やっぱり、星矢君たちには各自で戦ってもらうしかないね」 なのははそう結論づけた。せめて半月の猶予があれば、聖闘士たちにチーム戦を教えられたと思うが、そんな時間はない。 残る課題は、いかに一対一の状況に持ち込むかだが、そこはどうにかなるだろう。 聖闘士たちから、黄金聖闘士に関する情報ももらった。これまでのナンバーズのデータと照らし合わせれば、おおよその戦闘力は概算できる。 ただ一人、ウーノだけは別だった。彼女は一度も戦場に出たことがなく、乙女座の詳しいデータもない。バルゴのシャカと戦ったのは、ミッドチルダに来ていない瞬の兄だった。 なのはとフェイトが気力を振り絞り、のろのろと立ち上る。ヴィヴィオを抱きかかえてベッドに向かうフェイトに対して、なのははネクタイを締め直し外の扉へと歩いていく。 「なのは?」 「最後の仕事をしてくるね」 なのはは小さくため息をつくと、部屋の外へと出ていった。 世界は夜の闇に包まれていた。月と星の光では、闇をかすかに和らげるのみで、街灯の光が照らす場所だけが、まるで切り取られたように明るい。 そんな闇の中を、物音を立てないよう注意しつつ移動する影があった。人影は二つ。どちらも巨大な箱を背負っている。 「ねえ、星矢。本当にいいの?」 「仕方ないだろ。沙織さんたちが待っているんだ。これ以上、時間をかけられるか」 植え込みに隠れながら、聖衣ボックスを背負った星矢と瞬は、紫龍たちの部屋を目指していた。紫龍と氷河を誘って、スカリエッティのアジトを探しに行くつもりだった。 星矢が次の植え込みに移動しようとすると、足に何かがひっかかった。 「おい、引っ張るなよ」 「え? 僕は何もしてないけど」 「じゃあ、いったい何が……」 振り返ると、星矢の足首を光の輪が拘束していた。星矢の顔から血の気が引いていく。光の輪はよく知る桜色をしていた。 「……私もいつかやるだろうと思ってたけどさ。よく今日だってわかったな?」 「う~ん。顔を見たら、なんとなくピンと来たんだ」 「なるほど。無茶な奴は無茶する奴を知ると」 「私、ここまで無茶かな?」 街灯の光の中に、デバイスを持ったなのはとヴィータが進み出てくる。星矢の行動をあらかじめ予測して待機していたらしい。 「な、なのはさん」 「ねえ、星矢君」 なのはは星矢の瞳をまっすぐ正面から見つめる。 「こんなに時間がかかってしまって悪いと思ってる。でも、もう少しだけ私たちを信じてくれないかな?」 スカリエッティがこれだけ沈黙を保っているのは完全に想定外だった。捜査員の安全を重視している為、アジトの捜査もあまり進展はない。 「星矢君たちはあくまでも協力者。どうしても行くっていうなら、私たちに止める権利はない。だから、お願いすることしかできないんだけど」 なのはは怒るでもなく、むしろ真摯に語りかける。 なのはと星矢の視線が正面からぶつかり合う。緊迫した空気が辺りに張りつめた。 「……わかったよ、なのはさん」 ややあって、先に視線をそらしたのは星矢の方だった。 「大人しく部屋に戻る。それで、なのはさんたちがアジトを見つけてくれるまで待つ」 「ありがとう。星矢君」 なのはににっこり笑いかけられ、星矢は照れたようにそっぽを向いた。 「なんか、なのはさんって、姉さんみたいだな」 星矢の姉、星華は気が強くて、星矢が悪戯をするたびに、叩かれたり耳を引っ張られたりした。けれど、本当に星矢が悪いことをした時は、悲しそうな顔をされた。それが百万の怒声やげんこつよりも、星矢には堪えた。 「お姉さんがいるんだ」 「ああ。もう何年も会ってないけどな」 「どうして?」 「行方がわからないんだ」 孤児だった星矢にとって、姉は唯一の肉親だった。 星矢はアテナの養父、城戸光政によって姉と引き離され、聖闘士になるべく修行の地ギリシャへと送り込まれた。 星矢が聖闘士になったのは、姉にもう一度会いたいと言う強い願いがあったからだ。しかし、いざ聖闘士になって日本に帰ってみれば、姉は行方不明になっていた。 グラード財団が総力を上げて捜してくれているが、姉の消息は一向につかめない。 「そっか。いつかお姉さんに会えるといいね」 「ありがとうよ。俺たちの世界がもっと平和だったら、とっとと捜しに行くんだけどなぁ」 星矢は寂しげに笑い、瞬と連れ立って部屋へと戻っていく。 「それで、お前たちはどうする?」 ヴィータが背後に向かって声をかけた。 「お見通しでしたか」 「よく言うぜ。本気で隠れる気なんかなかったくせに」 建物の影から、聖衣ボックスを背負った紫龍と氷河が現れる。どうやら星矢たちと同じことを考えていたらしい。 「星矢たちが信じたならば、我々もあなた方を信じます」 「そうだな」 一悶着あるかと思いきや、紫龍と氷河も大人しく部屋へと戻っていく。聖闘士たちの信頼は、ヴィータの想像以上に厚いようだった。 調整を終えたチンクは、アジトの中を歩いていた。 通路の壁には、大量のガジェットが待機している、ただし、この機械たちが再び日の光を浴びることがあるかどうかは、はなはだ疑問だ。 通路の途中で、黄金の箱に寄りかかるようにしてセインが座っていた。普段は明るい彼女が、浮かない顔をしている。 「どうした?」 声をかけると、セインがチンクを振りかえる。そして、チンクが右腕に抱えている兜を見て、苦笑する。 「また、かぶってないんだ」 「ああ、これか。どうにも違和感があってな」 チンクは兜を顔の前に持ってきて、唸る。 ピスケスの聖衣は体の一部のようにフィットしているのだが、兜だけは少し違和感があり外れやすいのだ。髪の毛一筋ほどの差なのだが、他がフィットしている分、どうしても気になる。 「そっちはまだましみたいだよ。オットーとディエチ、セッテなんか、任務以外ではまずかぶらないしね」 件の三名が、無言で兜とにらめっこしていたのを思い出す。 「そういうセインこそ、また胸元を緩めているのか?」 「どうも窮屈でね」 聖衣の隙間から覗くセインの胸を、チンクが妬ましげに見ていたが、セインは気がつかない振りをした。チンクの幼児体型では、窮屈になりようがない。 「セインは、ここで何をしていたのだ?」 「ちょっとこの子たちが可哀想だなって」 セインは通路の壁で待機しているガジェットⅠ型を撫でた。うっすらと積もった埃が、セインの手を汚す。 スカリエッティの興味は、もはやゾディアック・ナンバーズにしかない。ガジェットの性能では、足手まといにしかならないからだ。 「ところでさ、最近のドクター、ちょっと変じゃない?」 「ドクターはいつも変だろう」 あっけらかんと返されて、セインは唖然となる。優等生然としているチンクが、まさか同じ印象を抱いているとは夢にも思わなかった。 「いや、それはそうなんだけど、なんか無理やりいつも通りに振舞ってる気がしない?」 「考えすぎではないか? おかしいとしても、ドクターは黄金聖衣の制御の為に、徹夜続きだからな。そのせいだろう」 チンクはドクターの態度に不信は抱いていないようだった。 「他にもさ、なんかみんなの様子が変なんだよね」 トーレは地上本部襲撃の日以来、訓練室にこもりきりになっている。必殺のタイミングで、フェイトが倒せなかったのが悔しいのだろうが、あまりトーレらしくない。彼女はもっと堂々として、姉妹たちの模範となるような存在だったはずだ。 「それ、わかるよ」 「ディエチ」 通路の影から。ジェミニの兜を抱えたディエチがやってくる。 「最近、クアットロが少し変なんだ。ちょっと怖いっていうか」 ディエチの言葉に、セインとチンクも押し黙る。元々ふざけた喋り方をする奴だったし、時には任務で破壊工作を行うのを楽しんでいるような素振りもあった。しかし、一部の姉妹たちを、まるでゴミのように見ることはなかったはずだ。 最近では、ほとんどの時間を、ドゥーエと共に過ごしている。 セインは、水瓶の文様が描かれた黄金の箱を指差す。 「これの名前、二人は知ってる?」 「聖衣ボックスだろう?」 その名の通り、聖衣を持ち運びする為の箱だ。 「うん。でも、もう一つ別の名前があるんだ。パンドラボックスって」 ギリシャ神話で、開けてはならないとされている禁断の箱。そこにはあらゆる災厄が封じ込まれている。 聖衣も、アテナの許可か、自衛の為以外では装着してはならないと掟で定められている。あまりにも強い聖闘士の力を私利私欲に使わせないためだ。その戒めを込めて、パンドラボックスと呼ばれる。 「私たちは、本当にパンドラの箱を開けたのかもしれない」 黄金聖衣を入手してから、少しずつ運命の歯車が狂いだしている気がする。 感傷的なセインの物言いに、チンクは少し呆れたようだった。 「考え過ぎだ。お前だって、アクエリアスの聖衣をもらった時は喜んでいたじゃないか。私たちはこの力で、ドクターの夢を叶えるんだ」 「……そうだね」 迷いのないチンクに、セインは心が少し軽くなるのを感じた。 最終調整はもうじき終わる。 スカリエッティの夢を叶える為の、最後の舞台の幕が、今上がろうとしていた。 目次へ 次へ
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本日の献立は! …肉じゃが! おひたし! ぬか漬け! 味噌汁の具は、油揚げとほうれん草なり。 配膳確認、各自、箸の置き忘れはないか? ヴィータよ、速やかに席につけ。 飯が冷めるなり! シグナム、シャマル、リィン、はやて、覚悟…着席完了。 ザフィーラに猫まんまの用意あり。 全員…そろった、準備よし。 いざ! 「いただきます」 強化外骨格は飯を食えぬが、家族は皆で食事を摂るが八神家の掟なり。 今宵もただ、食卓に席並べて鎮座す。 魔法少女リリカルなのはStrikerS 因果 第四話『葉隠禁止(前編)』 あの日、いきなりはやてが知らない男を連れて帰ってきた。 シャマルがそいつの名を知っていた…葉隠覚悟。 クソ重てえユニゾンデバイス、零(ぜろ)のマスター。 大ケガしてるくせに空港火災で人助けに走り回ってた、 死んでない方がおかしいケガで走り回ってたやつだ。 それだけでも胸クソ悪い…のに、一緒に話してるはやてが楽しそうにしてるのを見て、決定的にムカついた。 最初は数日世話になるだけ、とか言ってたけど、何考えてんだか全然わかんねーし。 わざとお茶、頭にこぼしてみても、なんにも言わねーで拭きやがるし。 怒るとかなんとかしろよ! バカにしてんのかよ! あの目つきがムカつく。 なんか色々見透かされてるみてーでムカつく。 もっとムカついたのは、こんな風にキレてたのがこのあたし、ヴィータ一人だけだったってことだ。 シャマルがいきなり言い出しやがったんだ。 「いっそ、ここにずっといれば? 覚悟君」 入院中はずっと身の回りの世話してたんだっけか、情が移りすぎだってんだよ。 「はやてちゃんは簡単に言うけどね、首都圏だと住む場所も高いのよ」 おめーこそ簡単に言ってんじゃねえよ、男だぞこいつ。 「はやての力になる気があるなら、ここに居る方がよほど実際的だ」 なのにシグナムまでこれモンだったから、あたし一人で認めねー認めねーって言ってたら、 「本日まで、まことお世話になりました」 荷物まとめて敬礼してよ、さっさと出て行きやがったんだよ、あいつ! 完ッ璧あたしが悪モンじゃねーか、ざけんな! その後、はやてに本気で怒られた。 「覚悟君、独りぼっちなんよ。 独りぼっちの子をほっぽり出すなんて最低や」 全員で探しに出て、なのはとフェイトにも手伝わせて、 明け方、あいつが高級住宅街の川べりで座り込んでたのを見つけたのは、よりにもよってあたし自身だった。 帰ってこいなんて言いたくなかった。 あたしは心を許していない…だから。 「メシ、できてんぞ、来いよ…いいから!」 それで突っ張り通して連れ戻したのが、早くも半年前の出来事だ。 今じゃずいぶん慣れたもんだよ、我ながら。 はやての言う通り、あいつが管理局の仕事を手伝うこともあった。 戦力としては、くやしいけど認める。 うちに来て早々、なのはとの対戦結果を聞いてたシグナムが心待ちにしてたみてぇに模擬戦を申し込んだんだけど、 正午に始めてから日が落ちるまで、ずーっとにらみ合ったまま動かねえのな。 で、最終的には、 「積極!」 「紫電!」 同時にしかけて相打ち。 剣と拳が紙一枚の隙間で止まってた。 「葉隠覚悟は袈裟懸けに深き一太刀浴び、即死いたしました!」 「烈火の将シグナム、貴様に首を砕かれて二度と立てん!」 「零(ぜろ)の意志、果たせぬまま終わりました」 「主はやてを置き去りに散ってしまったか」 「不甲斐なき也(や)!」 「私もだ!」 なに、固い握手してんだよ。 戦い通じて友情はぐくんでやんの。 これだからバトルマニアはイヤだよ。 それからはもう、ヒマを見つけては試合(しあ)ってて、たまにあたしも巻き込まれたから、 弱いわけねーってのはよーくわかった。 ラケーテンハンマーを『因果』された時は最低の気分だった。 回転始めて力を溜めた瞬間に「隙あり 因果」とか、やってらんねーよマジで。 空気読めってんだよ。 おかげで、より遠くから打ちかかれるように技自体を改良するしかなかった。 そんくらいには、強い。 だから、ガジェットドローンを素手でズッコンバッコンぶっ壊されても、別に驚かなかったな。 零(ぜろ)は仮封印処置を取られてて許可がないと使えねぇって話で、 シグナムと立ち会ったときにも実際装備しなかったけど、ぶっちゃけあいつ武器いらねーって。 ま、そんなこんなのそんなこんな。 全員一緒の休日がとれたあたし達は、遊園地に行くことになった。 クラナガン・サン・ガーデン。 最近できた遊園地だとか。 んなことはどうでもいいんだ、楽しけりゃな。 だけどよ…こいつ、完ッ璧、ダメだ。 マッハがつくポンチ野郎だ。 はやてにムリヤリ組まされて、その辺はっきしわかった。 ガンシューやったんだよ、ガンシューティングな。 『スーパー・リアル・アサルト3』。 最近ゲーセンに入ったばかりの新作が、大迫力の立体映像で遊べる。 遊園地だと後がつかえるから、二人プレイでライフ共有になってるけどな。 うん、まあ、銃自体はうまかったんだよ。 ほとんど百発百中であきれたしな。 だけど弾は切れるようにできてるのがゲームってもんで、 「弾、切れるだろ、あれ撃てよ」 向こう側に出てきたカートリッジを指さしたんだけどよ… 「なにやってんだよ、撃てってば」 「火薬の塊たる弾倉に銃弾叩き込むなど、正気か、ヴィータ!」 「いやこれ、ゲームだから! ゲームだから! そういうモンなんだってば、そういうルールなんだってばよ」 「しかし…これはリアル、すなわち現実的であると銘打たれていたからして、そのような…」 「だーっ、アホヤローッ」 銃をぶん取ってあたしが撃ったら、弾が満タンになって、 あいつは釈然としない顔でゲームを続けてた。 あたしもぶちぶち言いながら結構先まで行けたんだけどよ、それで終わりじゃなかったんだよなあ。 ガンシューだとよ、ヘルプミーとか言って出てくる民間人いるじゃん。 撃つとワンミスになる邪魔なやつ。 ボスの直前に大量配置されてたんだよな、今作。 それを、あいつな…反射的に撃っちまったのな。 アーオゥ! とかいう悲鳴と一緒にワンミス。 「…今のは!」 「民間人だな、撃つとワンミス」 「なんだと…」 「あいつの盾になるよーに配置されてんじゃねーかな」 「外道許さじ! 正しき因果極めてやる」 んで、銃をピッタリ構えたかと思ったら、奥にいた敵キャラにしこたまぶち込みやがった。 一発撃てば死ぬのによー、こいつはもー。 「あらがえぬ人々の痛み、覚えたか」 「ノリノリだよな、おめー…あ、でも一発残したのな」 弾の補充のために残したか、やっと飲み込めてきたみてぇだな。 ここからはフツーにやれそうだ、そう思ってたのによぉ。 「…何やってんだ? それ、何のマネだ?」 「自害なり」 大真面目に銃口をてめえの頭に向けているこいつに、そろそろ泣きたくなってきたあたしは正常だよな? 「誤射にて罪なき人の生命を絶ったとあらば、我が生命、捧ぐ以外に償う途(みち)なし」 「だから、これゲームだから! それより、ボスが来っぞ」 「首魁(ボス)!」 また眼鏡をギラリと光らせやがった、こいつ。 嫌な予感がするんだけどよ、とりあえず言うだけのことは言って… 「弾一発じゃどうしようもねーから、おめーはすっ込んで」 「問題なし」 「はぁ?」 「胸すわって進むなり。 正義に敗走は無い!」 もう、何言っていいんだか全然わかんねえ。 その後すぐ、ライフ共有のせいで、あたしもろともゲームオーバーになった。 「あっはっはっはっは!! ふわはははははははっ!!」 何が悪かったのであろうか。 てめえはリアルで死ねと言われて蹴飛ばされたゆえ、 昼食がてらはやてに一部始終を伝え是非を問うてみたのだが。 …なにゆえ、皆は笑うのか? シャマルに、リィン、シグナムまで。 「あー、もうダメ、お腹痛くなっちゃって、もう…あはは、ははははっ」 「お腹が痛い?」 「言っておくが違うぞ覚悟、ぷっ、くくくくくっ」 食事に悪いものでも入っていたのかと立ち上がりかけたのを シグナムの両手に軽く制された。 「いや、すまん、おまえを笑い物にする気はない。 むしろその馬鹿正直さは好ましい」 「なにが悪かったかって、本気で聞いてるんだもんね、ふふっ」 「リィンはそんな覚悟くんが大好きなのですよー」 「わたしもや。 もー、ほんと、覚悟君らしーわぁ」 笑い物にされているなど、最初から思っておらぬなり。 皆の微笑みが、これほどに暖かければ。 ザフィーラに目をやると、尻尾をひとつ振って寝転んで居た。 その脇にかがみ、なにやら下を向いていたヴィータが立ち上がり、こちらに向けるは鋭き視線。 「どいつもこいつも…あたしの身に、なれッ!」 ずかずかと歩み来て、わが傍らに置かれたトランクをばんと叩く…何をする。 「零(ぜろ)よぉー、おまえ、こいつにどういう教育してんだよ、こらぁっ」 『我らはただの強化外骨格なれば、常識一般を教えることはできぬ』 零(ぜろ)はすでに心を許していた。 はやてに近しい人全てに。 やはり、はやて主導による徹底した人間扱いが効いているのかも知れぬな、と思う。 零(ぜろ)も一度は止めたらしいが、郷に入りては郷に従えと逆に諭されてしまったという。 ヴィータがこうしてからむのも、今日では日常茶飯事なり。 「にしてもよぉー、もうちょっとよー」 『生まれた世界が違うのだ! やむをえぬ部分は許してくれぬか』 「あんまり、零(ぜろ)を困らせたらあかんよ、ヴィータ」 荒れる様を見かねてか、はやてがたしなめにかかるも、 ヴィータはますますへそを曲げている様子。 やはりおれに落ち度ありか。 「あたしが困らされてんだよ、こいつに! とにかく、もうあたしはイヤだからな、こいつとは行かねー」 「よくわからぬが、申し訳ない」 「謝ってんじゃねーよ、もっとムカつくんだよ」 ではどうしろというのだ。 半年も共に生活しているが、このヴィータのことは未だわからぬ。 彼女らは皆、かつては闇に囚われた戦鬼(いくさおに)であったとは シグナム、シャマル自身の口よりすでに聞いており、その強さにも首肯せざるを得ぬが、 日常のヴィータがただの少女に過ぎぬことに変わりなし。 おれの何が彼女の機嫌をそこねるのか… 「ほなら、しゃーないわぁ」 はやてが席を立ち、おれのとなりに来た。 彼女もまた、たまにわからぬことをするので困るが… 「覚悟君、一緒に行こか。 お化け屋敷」 「お化け屋敷?」 「ヴィータが行きたないみたいやし…怖いんやね」 「彼女ほどのものが恐れる場所とは!」 奇っ怪至極! 遊園地、まっことわからぬ場所(ところ)なり。 先の射撃訓練施設といい…ここは民間人の遊戯場ではないのか? 「わたしは覚悟君と一緒なら怖ないねん」 「了解、謹(つつし)んで護衛させていただく」 …なぜ笑う、シャマル、シグナム。 これは試されていると見るべきか。 よかろう、ならば応えよう。 お化け屋敷がいかなるものであろうとも、はやてに指一本触れさせぬなり! 「征くぞ!」 「うん。 みんな、零(ぜろ)のこと見ててなー」 「待て、っつの」 突如、足を踏みならしたヴィータに振り返ると、 またずかずかとした足運びにて我らの征く道阻みたり。 「止めるな、ヴィータ」 「あたしも行くってんだよ」 「怖くはないか」 「ざけんな」 「良し!」 やはり彼女も戦士であった! ならば共にいざ征かん。 目標、お化け屋敷! 「あ、リィンも行くです、行きたいですーっ」 ―――これが、わが腑抜けぶり思い知る、実に五分前であった。 「覚悟くんたら、もう、ねえ?」 「まったく、少しは洒落のわかる男になれと言いたいが…どうした、零(ぜろ)?」 『侵略行為が行われている!』 「…なに?」 『半径50m以内、室内なり』 「なん、だと」 『追うのだ、覚悟を! はやてを!』 「言うに及ばず!」 「くるしい、ひぐっ、たすけて、息が…」 「撮るよーっ! 次は脱いでスマイル!」 「い、いやだあっ」 「お肉も脱いでスマイル!」 「ぎゃっ、ぐぶげっ!」 「バッチリ撮れたよー、お代は結構! だってボクの写真は芸術だから!」 「ひ、人喰った…お化け屋敷に、ホントにオバケ…おまえ、なに? ナニモノ?」 「ボクは戦術鬼(せんじゅつおに)、激写(うつる)! さあスマイルスマイル、撮るよーっ!」 「助け、うげぇっ」 前へ 目次へ 次へ
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燃えている。 それまでそこにあった光景が、全て紅蓮に染まる世界。 はるか太古より火は偉大な力の一つであり、人はその力に支えられて生きてきた。しかし、力は時として恐れを抱かせる―――。 ミッド臨海空港を襲った大規模な火災。多くの人々の行き交う場所を襲った最悪の出来事。 燃え盛る獄炎の中、次々と救助を成功させていくレスキュー隊の獅子奮迅の活躍を嘲笑うかの如く、それまでの奇跡のツケを払うように一人の少女の命が呑まれようとしていた。 「おとうさん……おねえちゃん……」 真紅に染まった空港内のエントランスを、スバルはひとりぼっちで彷徨っていた。 弱弱しい少女の助けを呼ぶ声は、燃え盛る炎の唸りにかき消されていく。 無力な少女を弄ぶように、崩壊した建物の爆風が巻き起こり、スバルを地面に叩き付けた。 痛い。熱い。恐怖と孤独感が襲い掛かり、弱い心を容易くへし折る。立ち上がることも出来ず、無力なスバルにはただ泣くことしか許されてはいなかった。 「こんなの……いやだよぉ……。帰りたいよぉ……」 か細く漏れる願いは、しかし非情な現実によって潰えようとしていた。 中央に建てられた女神像が長く晒された高熱によって基盤を崩壊させ、倒れようとしている。その先にはもはや動けないスバルがいた。 「だれか……助けて……っ!」 平和を象徴する女神像は、しかしやはりただの無機物でしかなく、無慈悲なままに少女を押しつぶそうと倒潰を始めた。 迫り来る影に、スバルは目を瞑る。 しかし―――。 「―――っ、よかった。間に合った……!」 願いの果てに助けは来た。 この広大な空港の中、火炎地獄を物ともせずに駆けつけ、巨大な女神像をバインドによって固定した魔導師の少女によって。 「もう、大丈夫だからね」 スバルを間一髪のところで救出した高町なのはとその相棒レイジングハートは、安心するよりも呆然としたスバルをシールドで包み、砲撃の準備を開始した。 そして次の瞬間、寸断された通路の代わりに、脱出路を確保する為の一撃が炎と夜空を切り裂く。 スバルは轟音と共に開かれる天井を見上げた。 赤一色しかなかった世界に、夜空の黒が覗いている。自分を閉じ込め、二度と解放しないだろうと感じた地獄の中に一筋の道が生まれていた。 「さあ、早くここから出よう」 「あ……」 衰弱したスバルの体を、優しい腕が持ち上げる。 見上げる先には力強い笑顔があり、スバルはまた泣きそうになった。今度は恐怖などではなく、ただ心からの安堵で。 そして、なのはが飛行魔法を使おうとした―――その時、二人の視界で炎が『動いた』 「え……っ」 「何!?」 スバルを庇うように抱き締め、なのはがレイジングハートを目の前の異様な光景に向ける。 それは、錯覚なのだろうか―――二人は自問する事となった。 視界を埋め尽くすように揺らめく炎の中で、赤い背景に溶け込むようにして蠢く奇怪なものの姿があった。 それもやはり炎には間違いない。だが、周囲で燃える炎の中で、その一点の炎だけが違う不規則な動きを見せ、同じ真紅の世界の中で浮き彫りに見える。 それは『燃え盛る体を持つ牛の化け物』に見えた―――。 肥大化した筋肉に覆われた上半身。捻じ曲がった巨大な二本角。目や鼻に位置する穴から炎を噴き出す牛の頭。そして、その手に持つ奇怪な形の大鎚。 この世の者ならざる異様な姿を持ちながら、全身が比喩ではなく『燃え盛っている』せいで、炎の中にその全貌が溶け込んでしまう。 「まさか、この火災を起こしたのは……?」 思わぬ真相に遭遇してしまったなのはは、腕の中で震えるスバルを抱く力を強め、敵意を持って炎の中を睨み付けた。 アレが炎の見せる幻影でないのなら、戦わなければならない。 火の肉体を持つ怪物が、眼球とおぼしき熱の塊をなのは達に向けたような気がした。 果たしてその<眼>は自分達を見ているのか? しかし、怪物がその疑問に答えることはなかった。 二人の目の前で、怪物は唐突に消滅し始める。周囲の炎に怪物の体が溶け込むようにして見えなくなっていった。 つい先ほどまでハッキリとその異形を認識出来たのに、見る間にただの炎と怪物の体の境が曖昧になり、気が付いた時には目の前でただ炎が燃えていた。 あの怪物を見た強烈な衝撃は現実感と共に薄れていき、あれが本当は炎の動きが生み出した錯覚に過ぎないのではないかとすら思えてくる。 「……今の、見えた?」 なのはが自分と同じように呆然とするスバルに尋ねた。 自分の見たものが何だったのか? ありのままに受け入れることも出来ず、スバルはなのはの胸にしがみ付いて、かろじて頷くだけだった。 「そう……。忘れた方がいいよ。さ、行こう」 全てが幻であったと言い聞かせるように囁き、なのははスバルを抱えて飛び上がった。この小さな少女がこれ以上悪夢を見ないよう、覆い隠すように抱き締める。 かくて、二人は燃え盛る火災現場からの脱出を果たした。 この日、炎の中で起こった一瞬の幻のような邂逅を、覚えている者は一人、忘れた者は一人。 少女は、この時助けられた記憶から自らの弱さを嘆き、憧れを追い始める。 魔導師は、この時見たモノの記憶が薄れぬよう心に刻み、闇に潜む存在を疑い始める。 <力>は時として人に恐れを抱かせる。しかし、また同時に人を魅せて止まない。 故に、魔に魅入られし人は絶えず……。 自らの背後から伸びる影に埋没する者達の存在を、多くの人々はまだ知らない―――。 魔法少女リリカルなのはStylish 第二話『Gun Fist』 0072年6月。時空管理局武装隊ミッドチルダ北部第四陸士訓練校にて。 『―――試験をクリアし、志を持って本校に入校した諸君らであるからして』 亡き兄の夢と仇を追って、大空への第一歩を踏み出そうとする少女<ティアナ=ランスター>と。 『管理局員、武装隊員としての心構えを胸に』 あの日憧れた姿を胸に、その人の待つ高みへと最初の一歩を歩みだした少女<スバル=ナカジマ>と。 『平和と市民の安全の為の力となる決意を』 そして、多くの夢と栄光を目指して同志達が今、ここに集結していた。 『しかと持って訓練に励んで欲しい!』 「「「はいっ!!」」」 『以上! 解散! ―――1時間後より訓練に入る!』 目指すべき先は長く険しく……しかし、彼らの瞳は一様にして輝いていた。 若きストライカー達の挑戦が、此処から始まる。 スバルは感じた。この人、何か猫みたい。 ティアナは思った。こいつ、何か犬っぽい。 32号室で相部屋となったルームメイト兼コンビパートナーへの、お互いの第一印象である。 「スバルだっけ。デバイスは?」 「あ、わたしベルカ式で、ちょっと変則だから……」 初の訓練前で騒然とする倉庫内で、各々が規格の訓練用デバイスを選ぶ中、スバルとティアナのコンビだけが自前のデバイスを調整していた。 「<ローラーブーツ>と<リボルバーナックル>! インテリシステムとかはないタイプだけど、去年からずっとこれで練習してるの」 手馴れた様子でいち早くデバイスを装備したスバルが誇らしげに2タイプのデバイスをティアナに紹介した。 素人とはいえ、独特のデバイスを自作出来る程の知識を持つティアナはそれらを冷静に解析する。 ローラーブーツは自分で組んだというだけあって、特色のない魔力駆動の規格品である。陸戦魔導師ならば、妥当な機動力の確保方法だと言えるだろう。 しかし、右腕に装着したナックルの方はかなりの高級品だと見抜いた。近代ベルカ式は次世代魔法だし、搭載されたカートリッジシステムもコンパクトで新しい。 「格闘型……前衛なんだ」 「うん!」 さて、この逸品を使いこなす猛者なのか、玩具にするバカのボンボンなのか。そんな意味合いを含んだティアナの呟きを、能天気なスバルはもちろん気付かなかった。 「ランスターさんは?」 「あたしも自前。ミッド式だけどカートリッジシステム使うから」 ツインバレルのショットガンに酷似した形状のアンカーガンにカートリッジを詰めながら、素っ気無く応える。 特色といえば、銃身の下部に備えられたショットアンカー程度の汎用デバイスを二つ。ティアナの本来のスタイルは二挺拳銃(トゥーハンド)である。 一般魔導師からすれば変則ではあるが、特に目立ちもしなければ誇れもしない装備だった。 「わ、銃型! 珍しいね。かっこいー!」 しかし、スバルは銃型という点に眼を輝かせた。 質量兵器が廃止されて久しいミッドチルダでは、銃は映画などのフィクションで活躍する代物なのだ。 実用性と機能美を重んじるティアナはそんな子供っぽい反応に冷めた視線を返す。無言の釘を刺されたスバルがビクッと震えた。 必要以上馴れ合うつもりもなければ、相手にわざわざ合わせる気もない。 元来冷めた性格であるティアナは、やはり素っ気無く視線を外すと、デバイスのチェックを終了した。 そして、ティアナの手の中で二挺のガン・デバイスが華麗に踊る。 トリガーガードに指を掛けてコマのように数回転させると、銃身が小気味よく風を切った。その動作のまま流れるように、腰の後ろのガンホルダーへ突っ込む。 ―――と、そこまでの流れを無意識に行って、ハッと我に返った。 ティアナは自分の失態に気付くと、ギシギシと軋む首で視線を移動させる。 先ほどよりも激しくキラキラと瞳を輝かせたスバルの顔があった。どうやら、このパフォーマンスがウケにウケたらしい。 「すっごーい! 今のメチャクチャかっこいーよ、ランスターさん!」 「だああっ、もううっさい! 今のはついやっちゃったの。あんな頭の悪い芸、普段はしないんだからねっ」 「悪くないよ、すごくいいよ! ね、ね、もう一回やってみせて!」 「やらない! 訓練始まるわよ、さっさと並ぶ!」 はしゃぐスバルを置いて、ティアナは足早にその場を立ち去った。この3年間、銃の扱いを参考にしていた男から知らずに受けた悪影響に頭を悩ませながら。 ティアナは感じた。この娘、バカだがやりづらい。 スバルは思った。この人、こわいと思ったけど実はかっこいい。 初のコンビプレイを目前に控えた二人の、ちょっと変化した互いの印象である。 「ふえー、広い訓練場ですね」 「うん、陸戦訓練場だからね」 木々と岩場で構成される自然の訓練場を一望出来る場所で、エリオを連れ立ったシャリオが陸士の訓練を見学していた。 エリオ=モンディアル。今はまだ芽さえ出ない才能を眠らせたこの幼い少年が、この場を訪れたのは、あるいは運命だったのかもしれない。 「あ、朝の訓練始まるねー」 談笑する二人の眼下で、ティアナとスバルを含む訓練生達が記念すべき最初の訓練を開始しようとしていた。 最初の訓練はコンビによる機動と陣形の即時展開。訓練場の設備を利用した基本的なプログラムだった。 「障害突破して、フラッグの位置で陣形展開。わかってるわよね?」 「うんっ!」 二人組(コンビ)での行動の仕方はすでに把握している。しかし、それはあくまで知識としてでしかない。 冷静なティアナとは反対に、スバルは若干緊張していた。 『次、32のコンビ!』 「前衛なんでしょ? フォローするから先行して」 「うん!」 力強いが単調なスバルの返事からその心境を伺えるほど付き合いの深くないことが、ティアナにとって不運だった。 スバルとティアナに番が回って位置についた時。スバルの魔力が過剰なまでにローラーブーツに注ぎ込まれるのをティアナが気付いた時には、全てが手遅れだった。 『セット……ゴーッ!』 号令と同時にスバルが飛び出した。トップスピードで。 「えっ!? ちょ……ぷあっ!」 爆音と共にローラーブーツの瞬発力が炸裂し、地面と背後のティアナを吹き飛ばす。相棒を置き去りにして、スバルは誰よりも速くフラッグポイントを確保してみせた。 そして、当然ながら不合格だった。 ティアナはスタート地点で尻餅を着いたまま咳き込み、完全にスバルの独断専行になってしまっている。 「馬鹿者、なにをやっている!? 安全確認違反! コンビネーション不良! 視野狭窄! 腕立て20回だ!」 教官の叱責を受けて、二人はいきなり意気消沈した。 「足があるのは分かったから、緊張しないで落ち着いてやんなさい」 「ご……ごめん……」 「いいわよ。とりあえず、いずれ舐めることになる訓練場の砂の味を予習することは出来たわ」 兄貴分譲りのジョークも、スバルには完全な皮肉としか聞こえなかったらしい。 余計落ち込んだパートナーと自分自身のバカさ加減に内心頭を抱えながら、ティアナは前途多難なため息を吐いた。 次の訓練は垂直飛越。壁などの遮蔽物を一人が足場となって飛び越える、やはり基礎的な訓練だ。 足場役が両手を組んで相手の足がかりとなり、跳ぶ力と押し上げる力で高い壁を飛び越える。多少息を合わせる必要はあるが、それほど困難な事ではない。 何より、これならば緊張で力んでもプラスにはなれど、マイナスにはならないだろう、と。ティアナは名誉挽回しようと意気込むパートナーを一瞥した。 「しっかり上まで飛ばせてよ」 「うんっ!」 気合い十分、スバルは頷いた。 そしてやはり、気負い気味なのは見越していたが、それに伴うスバルのパワーを予想出来るほど付き合いの深くないことが、ティアナにとっての不運だった。 「いち、にーの……」 「あれ? ちょっと待って、なんであんた魔力で身体強化して―――」 「さんっ!!」 次の瞬間、ティアナは星になった。 『跳ぶ』というより『吹っ飛ぶ』という表現が相応しい勢いで、ティアナの体が空高く舞い上がる。木の葉のように舞う相棒を見上げ、スバルは昇っていた血の気が一気に引いた。 「あああ、しまったぁ!」 格闘型ゆえ、魔力による肉体強化は基礎中の基礎。この滑らかな発動を褒めるべきか諌めるべきか……。 いや、とりあえず一発殴ろう。空中で錐揉みしつつ、口から漏れる悲鳴を噛み殺しながらティアナは黒い決意を固めた。 墜落死が確実な高度で勢いが衰え、落下が始まる。対処を考えるティアナの視界が地上を捉え、自分をキャッチしようと走り出すスバルの姿が見えた。 「動くな! 訓練のうちよ!!」 咄嗟に一喝したティアナの迫力にスバルが硬直する。 ここでスバルが持ち場を離れれば、コンビとしてのミスが決定する。それは許容出来なかった。片方のミスはもう片方が補う。だからこそ<コンビ>なのだ。 「……Slow down babe?」 『慌てんなよ?』 いつだって余裕をなくさず格好を付けたがるあの男の口癖が無意識に洩れた。 自分を見上げる不安そうな表情を不敵に笑い飛ばす。 ―――この程度で失敗などと判断されては困るのだ。パワー馬鹿に振り回されるのは慣れている。 「<エア・ハイク>!」 手に魔力を集中させ、その先に瞬間的な足場を作る。 赤い魔法陣が空中に出現し、それを蹴る反動で頭から落下する形の状態を変える。一蹴りでティアナは瞬時に姿勢を立て直した。 空中での機動確保の為に習得した魔法だが、まだまだ無駄が多い。こんなもの、あのいつも余裕綽々な兄貴分なら鼻歌交じりでやってのける。 それでも、彼から学び取った技術が今この瞬間を救ってくれたことにティアナは密かに感謝した。 一連の流れを見守っていたスバルを含む訓練生達が感嘆の声を漏らす中、やや派手な音を立てながらもティアナは無事自力で地面に着地した。 「ご、ごめんなさい! ランスターさん、大丈夫!?」 ティアナに対する尊敬の念を更に深めたスバルが、それでも心配そうに駆け寄ってきた。 それをジロリと一瞥しながらも、同じく歩み寄ってきた教官に向き合う。 「32番―――」 「特に問題はありません。『多少』パートナーに力みがあったようです」 睨み付けるような教官の視線を平然と受け流して、いけしゃあしゃあとティアナは言ってのけた。 自分が原因であると理解出来ているスバルはハラハラと二人の様子を見守っている。 しばしの沈黙の後、教官は『訓練を続行しろ』とだけ短く告げて、去って行った。 「……あのぉ、ランスターさん」 「……」 「ホント、ごめんなさい……失敗を取り返そうと思って……」 「……色々言いたいし、かましてやりたいんだけど、とりあえず一つだけ言うわ」 「な、何?」 「足が痺れて動けないから運んで」 着地の反動で動かない両足で棒立ちしたまま、ティアナは青筋を浮かべてこの先に待ち受ける多大なる苦労の元凶となるであろうパートナーに告げた。 「あれ、楽しそうです!」 「エリオは真似しちゃだめだよー」 そんな平和な一角からは、律儀にスバルに拳骨を落としながらも素直に運ばれるティアナの姿が見えるのだった。 結局、その日は一貫してそんな調子だった。 一通りの訓練が終了したその日の終わり。訓練の果てに得られたものは、スバルに課せられた反省清掃だ。 「あ、あの……ホントごめん……」 「謝んないで、うっとうしい」 一方的に迷惑をかける形になったスバルはすっかり落ち込んでいた。 数々の場面でスバルの暴走が目立ち、その度にティアナがフォローに回って訓練そのものは継続出来たが、それまでの減点で罰則が下されたのだ。 失敗の度、被害を被るティアナに申し訳なく思い、それを取り返そうとして気負う悪循環。理解出来ないほどスバルはバカではなく、それゆえに尚の事落ち込む。 反省清掃がスバルにのみ課せられたのが、せめてもの幸いだった。 これ以上パートナーに迷惑をかけるのは申し訳ないし、何よりどうしようもなく格好悪いと思えた。 「わたし、もっとちゃんとやるから……ランスターさんに迷惑かけないように!」 「―――あのさぁ、気持ちひとつでちゃんとやれるんなら、なんではじめからやんないわけ?」 意気込んで告げるも、限りなく冷めた視線が返される。 まったくその通りだ。自分を鼓舞するつもりが、スバルは逆に撃沈した。 「……ねえ、あんた真剣? 遊びで訓練やってない?」 「あ、遊びじゃないよ!」 しかし、どれだけ相手に申し訳なくても、その言葉にだけはスバルはハッキリと反論した。 「真剣だし……本気で……っ!」 真っ直ぐに自分の瞳を覗き込むティアナの視線を、精一杯見つめ返して、スバルは必死で言葉を紡ぐ。 それでも無言のティアナの様子に、自分のこれまでを省みて徐々に小さくなっていく声。そこでやっとティアナは口を開いた。 「ならいいわ」 「……へっ? い、いいって……」 「でも、だからって同じ失敗するようなら一発ぶち込んで鼻の穴一つにしてやるからね」 「え゛っ!? は、はい……!」 「よろしい」 あっさりと許しを貰って拍子抜けするやら、実はスゴイ怒ってるのかと背筋が凍るやら。混乱するスバルを尻目に、ティアナは掃除用具を片手に清掃を始めた。 「あ、あの、ランスターさんは掃除しなくても……!」 「二人でやった方が早く終わるでしょ? これ終わったら自主訓練するわよ。あんたには基礎訓練だけじゃ足りないわ」 「でも、これはわたしの罰なんだし……」 「仮とはいえ、あたしとあんたはコンビでしょ」 指で銃の形を作り、ティアナはスバルの眼前に突きつける。 「―――だったら、互いの罰は二人で被る。 あたしの銃は、あんたの背後の敵を撃つ。代わりにあんたの拳は、あたしの背中を守るのよ。いい? 肝に銘じておきなさい」 指をずらしてスバルの背後を撃つ真似をしながら、ティアナは不敵に笑ってみせた。 その危険な魅力と迫力を秘めた笑みにスバルは見入る。 それはスバルに、ティアナに対する第一印象の静かな雰囲気を一変させる烈火の如き印象を与えた。そして次に力強さと、頼もしさと―――何より憧れを感じる。 もしこの場に、ティアナとダンテの二人を知る者が居たのなら、こう言っただろう。 ―――本当に血が繋がってないのか? 笑った顔なんてソックリだぜ。 甲斐性なしで、常に余裕で、どんな時もくだらないジョーク交じりのおしゃべりが大好きなあの男の背中を見続けた時間の中で、少女は確かに変わっていたのだった。 「う、うん!」 怒られると思っていただけに、ティアナのパートナーとしての言葉と信頼に感動の涙すら見せるスバル。 ティアナは普段の冷めた仕草でため息を吐いた。 「返事だけはいいわね。言葉じゃなくて行動で応えなさいよ」 「わかった! わたし、頑張るよ!!」 「それじゃあ、まずはこの掃除をさっさと終わらす」 「了解! ……ねっ、『ティアナさん』って呼んでもいい?」 「分かりやすい馴れ合い方ね。こっちは『スバル』なんて呼ばないわよ、ナカジマ訓練生」 「ええ~っ、コンビでしょー?」 「あたしが頼れるくらいになれば、考えるわ。今日のミスの回数聞く? 数えてるわよ。いちいち言わないけど、恨みは募ってるから」 「う……っ、がんばります……」 少しだけ距離を縮めた二人の喧騒は、これからの生活を暗示するように訓練場の片隅で流れ続けた。 前途多難ではあるが―――とりあえず一歩。 いつかの未来で伝説になるかもしれないデコボコ魔導師コンビが、此処から始まったのだ―――。 to be continued…> <ダンテの悪魔解説コーナー> ヘル=プライド(DMC3に登場) 七つの大罪って知ってるかい? 人間が地獄に落ちるに値する罪だそうだ。 そのうちの<傲慢>を犯した人間を地獄で責め立てる魔界の住人が、コイツだ。 黒いボロ布を纏って大鎌を持ったミイラみたいな姿はまさににじり寄る死神だが、ちょいと腕の立つハンターからすれば雑魚同然だ。 もちろん、この俺にとっては言うまでもないよな。 死人を痛ぶることしか出来ないだけあって動きは緩慢で、砂を媒介に実体化してるせいかひどく脆い。 ビビらずに一発かましてやるのが、この雑魚どもに対する一番の攻略法さ。 どちらかというと、後に残る砂の始末の方が厄介で面倒極まりないくらいだね。 前へ 目次へ 次へ